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データ・センサによる都市インフラのマネジメント

未来都市編集部3,301 views

2019年12月20日、東京都市大学 二子玉川夢キャンパス(東京・世田谷区)にて、「未来都市研究機構第10回セミナー(第158回総研セミナー)」が開催された。東京都市大学では「未来都市研究の都市大」を掲げ、総合研究所未来都市研究機構を中心に、魅力ある成熟都市形成に貢献するエイジングシティ総合研究を推進。その活動の一環として、技術や制度に関するセミナーを定期的に行っている。

10回目となる今回は、未来都市研究機構が提唱している「アーバン・デジタル・トランスフォーメーション」に向けて、ビッグデータやその情報処理、機械学習、人工知能などのデータ技術を活用することによってもたらされる未来都市像と都市への情報の果たす役割がテーマとなった。

本記事では、公益社団法人 土木学会の専務理事で東京都市大学客員教授の塚田幸広氏による講演「データ・センサによる都市のインフラマネジメント」をレポートする。

塚田幸広氏

道路・交通マネジメントは、静的データから動的データへ

講演の導入では、塚田氏の研究の基礎となっている「データに基づく道路・交通マネジメント」がこの10年でどう変化してきたのかが紹介された。

「われわれ道路行政に携わっているものにとって、渋滞や事故に関する道路・交通マネジメントは以前から大きな課題です。交通量や渋滞の長さ、事故件数といった静的なデータで、いかに『見える化』を行い、予算を効率的に配分するかという、『道路見える化計画』を10年ほど前からはじめました」(塚田氏)

「道路見える化計画」に関して、山梨県の事例が取り上げられた。同事例では、交通量や渋滞の長さ、事故件数などのデータから山梨県内において課題の大きい地点・区間である47カ所をリストアップし、事故件数の多い危険な場所から並べるという「優先度明示方式」を行い、順番に対応を行っていった。

塚田幸広氏

最近では、プローブ情報(実際に自動車が走行した位置や時間、ワイパーやブレーキの履歴)による速度や、事故の起こりそうなヒヤリ・ハット情報といった動的データを活用して、これまで行ってきた「見える化」を改善し、施策の検証、国民への説明責任を実施している。

「事故は顕在化した危険ですが、プローブ情報が活用できるようになったことで潜在的な危険まで『見える化』することが可能となり、道路・交通マネジメントに生かせる時代となってきました。また渋滞に対してもプローブ情報を用いることで、渋滞損失時間の算出ができるようになりました。時間帯や区間別に詳細な分析を行うことで、問題箇所の抽出や要因を把握することが可能となっています」(塚田氏)

巨大化する自然災害と管理体制の縮小傾向 AIやICTの活用は必須

2つ目の内容は「巨大化する自然災害への対応」。2019年は台風19号による被害が記憶に新しいが、ここでは、洪水災害への対応としての表面波探査や電気探査による「堤防の健全度の診断」や、地すべりなど斜面災害への対応として「斜面健全度の診断」に対し、データを測定・取得して、解析・評価をどのように行ったのか解説があった。

「日本には至るところで土石流、地すべり、がけ崩れといった斜面災害が起き、平成29年には土砂災害の発生件数が過去最大を更新しています。そこで国土交通省では設置したカメラ画像から、斜面崩壊や土石流の発生を自動的に検知する手法を開発しました」(塚田氏)

また地震災害への対応としては、「活断層の特定と移動量の計測」が紹介された。活断層調査の新技術には、航空機に搭載したレーザスキャナからのレーザ照射により地形の形状を詳細に調べる「航空レーザ測量」と、人工衛星に搭載された合成開口レーダー(SAR)から地表に電波を発射し、その反射波を比較分析することで地表の変動を知る「干渉SAR」があり、熊本地震におけるメカニズムの解明において活用されている。

「災害の現場に足を運ぶたびに、明らかに現場の管理体制が縮小していると実感します。そうした中、AIやICTの活用はまさに必須の状況といえるでしょう」(塚田氏)

「官」「民」にこだわることなく、未来のためのデータ活用を

3つ目は、インフラ老朽化への対応として行われている「ICTを活用した点検と診断」について。2017年度から、首都高速道路において導入されているスマートインフラ管理システム「i-DREAMs」が紹介された。

「i-DREAMs」とは損傷推定AIエンジンを中枢にした、維持管理計画の作成支援システムのこと。点検データや交通量などの各種データを入力することでAIエンジンが学習し、劣化、損傷、補修や補強候補を自動検査。その結果を維持管理計画の作成支援に役立てるもの。

塚田幸広氏

さらに、数多くの自治体で利用されているクラウド型簡易路面診断サービス「道路パトロール支援サービス(道パト)」と、ドライブレコーダーにて撮影した動画を連動させる「動画連携オプション」についての紹介もあった。

「10年前には、『官』が自らデータをとって判断する状況でしたが、最近はビジネスとして『民』が取得したデータを用いています。『管理というと、すべて官が行うべき』という考えの方もいるかもしれませんが、大きく変化をしています。官民にこだわらず、すぐれた技術を活用していくべきだと考えています」と塚田氏は講演を結んだ。

塚田 幸広(ツカダ ユキヒロ)

東京都市大学 客員教授
公益社団法人土木学会 専務理事

ライター:未来都市編集部

東京都市大学 総合研究所 未来都市編集部です。未来の都市やまちづくりに興味・関心を持つ方に向けて、鋭意取材中!