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SDGsが目指す社会へ、VR技術でコミュニケーションの可能性を広げていく(前編)

未来都市編集部4,191 views

東京都市大学では「未来都市研究の都市大」をコンセプトに掲げ、各領域で都市研究を重ねてきました。本記事では未来都市研究機構のユニットの1つ「VR×社会的交流の場の創生研究ユニット」の狙いやこれまでの取り組みについてご紹介します。今回はメディア情報学部の市野順子教授にお話を伺いました。

新たな遠隔コミュニケーションの探求

SDGsが目指す持続可能な社会の実現に向けて、遠隔でのコミュニケーションが求められており、昨今のコロナ禍によってそのニーズにより拍車がかかっていると言えます。遠隔コミュニケーションには、テキストチャットやビデオチャットなどが従来からありましたが、近年では新たな手段としてバーチャルリアリティ技術を使った遠隔コミュニケーション支援が注目されています。これにおいて、人と人がコミュニケーションする時、どのようなVR空間が最適かということへの模索が研究の課題です。

なぜ私がVR空間に興味を抱いたのかというと、「アバター」がきっかけであると言えます。テキストチャットやビデオチャットは対面に比べてコミュニケーション満足度が低い一方、VRではアバターの存在によって満足度を高められるかもしれないと感じたのです。

以前、VR空間でいわゆるオタク系のおじさんがチャットする様子を観察する機会がありました。皆さん、おじさんながらもアバターを美少女キャラに設定して、本音ベースで話をしていたことが印象的でした。そんな光景を垣間見て、VR空間には本音を出させてしまう何かがあるなと感じたのです。自分が誰であるかを知られていないという条件も重なっているのかもしれませんが、何か秘密があるのではないかと思わざるを得ませんでした。

またVRチャットを好む人たち曰く、VRを続けていると次第にどちらの世界が現実か分からなくなると言います。VR空間に行きたくて待ちきれないから、帰省を早めて学校に戻ってきたという学生もいました。1日のほとんどをVR空間で暮らしたいという人もいます。その人にとってはどちらの世界も現実でリアルなのかもしれませんね。

多彩な場での活用が期待できるVR技術

今の段階ではVRは特定の層にしか使われていませんが、HMD本体が今後さらに軽量化されたらもっと普及して、VR空間で自分の本音を言えるようになるのではと考えます。カウンセリングに活用したり、会議で若手が体裁を気にせずに意見を言いやすくなったりと。あるいは自閉症など、自分の気持ちを上手く表現できない人たちの手助けになることもあるかもしれません。そのようなVR技術の活用法を見出していくのが私の研究の大きな方向性です。ゴールに向かって3〜4年というスパンで進めていく予定で、今年度においては4つの実験を行いました。

VRの研究の模様

1つ目は「VR空間で自己開示をどのくらいできるか」ということを試す実験です。2名1組で行い、「写真をベースにしたリアルな人間に近いアバター」「性別や年齢が分からない宇宙人のようなアバター」「オンラインビデオチャットでの対話」という3つの条件に基づいて被験者さんにお喋りしてもらい、自己開示のレベルを比較するというものです。先日実験が終了し、現在は分析に入っている段階です。人間に近いアバターよりも、宇宙人のようなアバターとの対話が内面をさらけ出すのではというのが私の仮説ですが、どのような結果が得られるのか興味深いですね。

2つ目は「VR空間で会議を行うことで、遠慮なく意見を言えるか」ということを試す実験です。4人がVR空間でディスカッションすることで、どれくらいアイディアが出るか、意見を言い合えるかということをデータ分析するものです。こちらも実験が終了し、データ分析を行っている状況です。

3つ目は「アバターの視点を変える」という実験です。現実の世界では私たちは一人称で話をしていますが、VR空間では三人称視点に操作することが可能となります。つまり、自分自身を上から、あるいは背後から見ることができるのです。実験では、一人称、三人称という2つの視点における自己開示の変化を調査し、データを取りました。ちなみに、一人称視点では目の前に人が見えている状態で自分の手が少し見えるくらい。三人称視点では自分を客観的に見ることができるイメージです。分析結果が少しずつ出始めている状況ですが、私の仮説に反して「一人称視点の方が、統計的に見ると優位に自己開示が進む」という結果になりました。これには一人称視点の方がより自分にフォーカスしやすく、内面を吐露できる傾向が強いと考察できます。また、三人称視点だとやや俯瞰してしまい、物事をクールに受け止めてしまうとも言えますね。とはいえ、会議など冷静に物事を考えるシーンなどには、三人称視点のVR空間が何かの役に立つ可能性もあるのではとも考えます。

後半では「VR×社会的交流の場の創生研究ユニット」のその他の取り組みや、今後の展望などについてお伝えします。

市野 順子(イチノ ジュンコ)

所属:メディア情報学部 情報システム学科
職名:教授
出身大学院:電気通信大学 修士 (情報システム学研究科) 1998年 修了、神戸大学 博士 (自然科学研究科) 2007年 修了
取得学位:博士(工学) 神戸大学 2007年
研究分野:ヒューマンコンピュータインタラクション

ライター:未来都市編集部

東京都市大学 総合研究所 未来都市編集部です。未来の都市やまちづくりに興味・関心を持つ方に向けて、鋭意取材中!