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エイジングシティ問題は、成熟した都市づくりへの好機

未来都市編集部4,633 views

未来都市研究機構の推進する「都市研究の都市大」事業は、文部科学省が推進するプロジェクト「私立大学研究ブランディング事業」に採択されました。当機構は、魅力ある未来都市の再生やエイジングシティの実用化を先導し、国際的に発信していくことを主目的としています。未来都市研究機構が未来へ向けて目指すビジョンについて、当機構長、および都市生活学部学部長を務める川口和英教授にお話を伺いました。

川口和英

「未来都市研究は、都市大の使命です」

2009年に改称した校名に「東京」や「都市」を冠し、世界最大の都市圏である東京・横浜にキャンパスを置く本学で「都市研究」に取り組むことは使命のようなものです。世界的に見ても都市研究を専門的に行う大学は存在せず、「都市研究の都市大」はそれだけ世間の注目と期待を集める大学であると評価しています。その中に新しく誕生した組織が未来都市研究機構です。都市の諸問題に対応する解決策、ソリューションを生み出すことを目的に、未来都市研究の分野でイニシアティブをとることを目指しています。

都市研究において、様々な問題を抱えた都市が未来に向けてどのように変化していくかを見極めることは、研究の根幹になります。そこで重要なキーワードとなるのが「エイジング」です。日本の道路、港、空港などのインフラ設備は完成後約50年が経過して、ハード面での老朽化が目立ち始めています。さらに少子高齢化と人口減少が世界最速ペースで進んでおり、ソフト面での問題も大きくなりつつあります。つまり日本の都市は、ハードとソフトの両面において早急に対応しなければならない問題を抱えているのです。本学ではこれらを総称して「エイジングシティ問題」と位置づけています。

川口和英

しかし、エイジングシティ問題を危機として捉えているわけではありません。
我々が目指しているのはエイジングを否定する「アンチエイジング」ではなく、「スマートエイジング」の発想に基づいた魅力あふれる都市です。居住者の生活の質を上げる成熟した社会で、人も都市も賢く年を重ねていけるような街づくりに貢献できるよう、学長のリーダーシップのもと全学部、全研究科・研究所が総力を挙げて「エイジングシティ研究」を進めています。

「5つの研究ユニットで、都市のあり方を探ります」

未来都市研究機構には現在、「生活・健康・情報・インフラ・環境」の5つの領域を設置しています。
各領域ではエイジングシティ問題に関わるテーマを1つずつ掲げ、横断的なユニットを組んで研究を進めています。
本学には工学部をはじめ、建築、環境など様々な分野の学部がありますが、エイジングシティ問題はどの分野にも関係性のあるものです。多様な分野が相互に関わりながら研究に取り組めば、物事を多面的に捉えることができて、より最適なソリューションにたどり着くことができます。

またエイジングシティ問題に対する研究成果は、国内だけでなく海外の都市にも応用が利くはずであると考えています。例えばアメリカでは20年前にインフラの老朽化を経験していますが、財政が削られることでメンテナンスが滞り、橋が落ちたり下水に不具合が出たりと様々な問題が噴出しました。その当時「20~30年経てば日本でも同じ問題が起こるだろう」と予測されていましたが、まさにその通りのことが起こりつつあるのです。アジアに目を向ければ、中国や東南アジアの国々は日本に追随するように経済発展が進んでいます。かつて日本が環境技術によって解決した問題や現在直面しているインフラの老朽化の問題は、アジア諸国でもいずれ発生するはずです。我々の都市研究が先導し、国際的にも通用する解決策を求めていく意義はそこにあります。

川口和英

今後5年に亘り、まずは5つの研究ユニットでエイジングシティ研究を続けていく計画ですが、研究に必要であれば新しい領域を加えることも視野に入れています。10年先、20年先を見据えながら、魅力ある未来都市のあり方を探っていきたいと思います。

「魅力ある未来都市とは、都市機能と人々の生活が共存共栄する都市」

現在の都市づくりにおいては、「人が歩ける街にする」というのが全世界共通のトレンドです。歩くことは健康の維持や病気の予防に効果的ですが、さらに街を歩くことで近所の人との交流が増え、好きなことを一緒に行うコミュニティが生まれ、街の活性化にもつながると考えられています。人が集まる街は、人を惹きつけるのです。

またコミュニティの大切さも見直されています。街にコミュニティがあれば一人暮らしの高齢者でも、自分を見守ってくれる存在が近くにいることに安心できます。それから、コミュニティの人たちが街づくりに参加することにもメリットがあります。例えば公園をつくるときに計画段階から参画し、アイディアを出すなどで関わることができれば、「自分たちが作った公園」に愛着が生まれて長期に亘って関心を持ってもらえます。結果的に、いつも人がたくさんいて、草木の手入れが行き届いた魅力的な公園になるといった事例が現実に増えています。

スマートで住みよい未来都市を目指すにあたり、都市機能と人々の生活がうまく調和できるかどうかはとても大切です。そうした観点からも、街づくりに人を巻き込んでコミュニティを作るといった取り組みはとても重要であると考えます。また本学は技術工学からスタートした大学です。今は総合大学ですが、長い間技術やイノベーションの研究を積み重ねてきていますので、それらを有効的に活かし、人々を幸せにする技術を都市の中で展開したいという気持ちが強くあるのです。人間の生活に親和性のある技術、人間味のある技術を考えていければと思っています。

2020年にはオリンピックやパラリンピックでたくさんの人が集まり、障害を持った人々も東京に訪れます。そのときに語られる意見を吸い上げることで、これからの先進的な都市がどうあるべきかが見えてくるでしょう。未来都市研究機構は、スマートで魅力的な都市づくりに貢献するために、情報と技術を駆使した未来志向の研究を積極的に進めていきます。

川口 和英(カワグチ カズヒデ)

所属:都市生活学部 都市生活学科 大学院環境情報学研究科
職名:教授
出身大学院:早稲田大学大学院 修士 (理工学研究科建設工学専攻) 1986年 修了
出身学校:早稲田大学 (理工学部) 1984年 卒業
取得学位:博士(工学) 早稲田大学大学院 2001年
研究分野:都市計画・建築計画
研究分野/キーワード:建築計画、都市計画
1「都市計画・建築計画」/集客学、集客空間論、魅力ある空間のひとあつめ、遊び場空間の研究、都市景観デザイン、美術館・博物館の研究、地球環境問題、社会資本研究等

ライター:未来都市編集部

東京都市大学 総合研究所 未来都市編集部です。未来の都市やまちづくりに興味・関心を持つ方に向けて、鋭意取材中!