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コミュニケーションインフラとしてのVRの可能性に着目し、未知の領域に挑戦を続ける(後編)

未来都市 編集部161 views

東京都市大学では「未来都市研究の都市大」をコンセプトに掲げ、各領域で都市研究を重ねてきました。本記事では、「VR×社会的交流の場の創生研究ユニット」のこれまでの活動と今後の展望についてご紹介します。後編は、市野順子教授と、共同研究を続けるTIS株式会社戦略技術センター井出将弘さんにお話しいただきます。

前編の記事はこちらからご覧ください。

企業の生産性向上のためのVR空間でのディスカッション

井出氏:市野先生の2名での対話と自己開示に対し、私が昨年行った実験は、多人数の企業での活用にフォーカスした研究となります。企業では日々グループディスカッションが行われています。議論で大勢のメンバーを集める理由は、さまざまな視点を持った人たちで、アイデアや問題解決の質を高めたいからです。しかし実際は、新入社員が黙り込んだり、役職者ばかりが発言したりで、必ずしも議論の質が向上するとは限りません。そこで、VR技術による没入感ある環境とアバターで、どのような場を提供したらディスカッションが活性化するか、ということに研究の焦点を当てました。今回、VR環境で変容させる情報としては「身体=外見」に着目しました。

コンピュータを用いたグループディスカッションの支援の研究においては、対面での発言のバランスが偏る問題は過去の研究で指摘されています。課題としては、積極的に発言する人の抑制は可能でも、発言に消極的な人を発言させるのは非常に難しいことが分かっています。一方、テキストや音声、ビデオといったメディアを中心に行われてきたコンピュータを介したコミュニケーションの研究に、社会的手がかり減少アプローチの理論という理論があります。社会的手がかりは、外見や振る舞い(視線,顔の表情,ジェスチャ,姿勢,韻律など)の非言語情報であり、対面と比較して、コンピュータを介したコミュニケーションでは減少することが知られています。社会的手がかり減少アプローチの理論では社会的手がかりの減少は相手の権力や地位の認識を弱め、議論における社会的ルールの影響を減少させるとしています。また、VR空間でのコミュニケーションにも先行研究があります。アバターを介したコミュニケーションでは、普段よりリラックスして議論ができることが示唆されています。

井出将弘氏

これらの先行研究を踏まえると、性別年齢等の外見の社会的手がかりをなくしたアバターならば、皆が社会的規範を意識せず率直に、リラックスして意見を述べるようになるのではないか。その結果、発言者の議論への参加のバランスが適切になるというのが私の仮説です。

アバターの没個性化が高まることで、議論の質が大きく変わる

実験方法としては、多様な背景を持った20代〜30代の男女ペアと40〜50代男女ペアの4人グループにディスカッションをしていただきました。
実験条件は参加者の顔写真をもとに頭部を作成した自分の姿に似せたリアルなアバター、自分の姿に似ていない社会的手がかりのないシンプルなアバターの2種類のアバターで比較をしました。
実験の手順としてはまず、参加者同士、面識があることを前提にするため、対面をしてもらいます。その後、自分の姿に似せたリアルなアバターと自分の姿に似ていないシンプルなアバターに扮して、グループディスカッションを行いました。

データ分析の結果、リアルなアバターよりもシンプルなアバターのほうが、参加者は発言量も減らずバランスよく発言していることが分かりました。アバターの外見から分かる、世代などの視覚的情報が発言に与える影響が大きいと言えます。こうした外見の非言語情報を剥がしてしまうと、全員がまんべんなく話せるのではないかという仮説が証明されました。

そして、性別や年齢など現実の姿を反映したリアルなアバターでの会話では、特定の参加者が、連続して話題をキープする割合が高くなります。視覚情報が発言力を持つ人であることを認識させ、振る舞いに影響を与えてしまうのではないかと考えられます。 

日本の組織ではよく、会議で若い人が意見を言わない、いいアイデアが生まれない、ダイバーシティが大切と説く偉い人ばかりが喋る、などの課題が指摘されます。問題解決のため、今後、企業で日常化するVR上のディスカッションはどうあるべきなのでしょう。
時にはリアルのアバターではなく、没個性化したアバターで向かい合えば、議論の質は大きく変わるのではないかと思います。

セレンディピティを引き寄せる、新たなVRの世界を目指して

市野教授:現在、私たちは日常的にZoomで人とコミュニケーションするようになりました。その結果、ちょっとした会話や偶然の出会いが圧倒的に難しくなったのです。Zoomで会議が終わったら、はい、さようなら。セミナーが終わったら、はい解散。隣にいる人と喋ったり、質問をしたりすることが、以前のようにはできていません。大きな損失ですね。偶然の幸運な出合いによって予想外のものを発見すること(偶有性)や発見する能力のこと(遇察力)をセレンディピティと言います。コロナ禍によってオンラインコミュニケーションが急増した結果、セレンディピティの欠如の問題はより深刻になりました。この問題に対して、VR空間で何かできることがないかと模索し始めています。

市野順子教授、井出将弘氏

例えば、セミナーが終わると、現実の会場では休憩ルームやお茶を飲む場所があると思います。そのような空間をVRの中でつくり、インフォーマルなコミュニケーションを支援したいと考えています。目指しているのは、VRならではのサービスです。人間の視線は私たちの目に見えません。誰が誰を見ているのか。誰が何を見ているのか。その視線をVR空間で可視化して、インフォーマルなコミュニケーションが生まれるきっかけにしたいのです。一見無駄に思える会話が、実は新しいアイデアの素となることがあります。引き続き、さまざまな試作を重ねる中から、新しいVRの世界がどれだけ誕生するのか、私たちの今後が楽しみです。

市野 順子(イチノ ジュンコ)

所属:メディア情報学部 情報システム学科
職名:教授
出身大学院:電気通信大学 修士 (情報システム学研究科) 1998年 修了、神戸大学 博士 (自然科学研究科) 2007年 修了
取得学位:博士(工学)神戸大学 2007年
研究分野:ヒューマンコンピュータインタラクション

井出 将弘(イデ マサヒロ)

所属:TIS株式会社 戦略技術センター

ライター:未来都市 編集部

東京都市大学 総合研究所 未来都市編集部です。未来の都市やまちづくりに興味・関心を持つ方に向けて、鋭意取材中!