東京都市大学 総合研究所 未来都市研究機構は3月29日、同大学世田谷キャンパスにて「未来都市研究の都市大シンポジウム2019」を開催。未来都市研究機構(2016年設立)を構成する5領域の代表者が登壇し、これまでの研究成果と2019年以降の展望について発表した。前半・後半に分けて各領域の報告内容をお届けする。
各領域の研究テーマと発表者
1.インフラ領域
「老朽化インフラの維持管理および防災技術の高度化」
工学部 関屋英彦 准教授
2.環境領域
「グリーンインフラの整備およびマネジメント」
総合研究所 飯島健太郎 教授
3.情報領域
「都市活動の常時観測への挑戦」
工学部 今井龍一 准教授
4.生活領域
「買物困難者支援システムの改善施策/都市生活者10000人調査の成果」
都市生活学部 西山敏樹 准教授
5.健康領域
「都市における外出行動支援に関する研究」
知識工学部 柴田随道 教授
前半は、インフラ領域、環境領域、情報領域の活動内容についてレポートする。
インフラ領域
工学部 関屋英彦 准教授
インフラ領域ではこれまで、「センサ技術・IoT技術・制御理論を活用したインフラモニタリングシステムの開発と検証」、「数値解析を用いたトンネルモニタリングの検討」、「沿岸災害と被害発生メカニズムの分析」などを行ってきた。
1.橋梁モニタリング
橋梁のモニタリングシステムを開発し、国内の橋梁にMEMSセンサを設置。「橋梁モニタリングシステム」によって、加速度データから車両重量、車軸数、走行車線を推定することに成功した。また1年間にわたって計測した結果、外気温などの状況変化に拠らず、安定した重量推定精度(最大誤差±10.6%)を得られることがわかった。MEMSセンサによるインフラモニタリングを常時行えば、橋梁をはじめとしたエイジングインフラに生じる損傷を事前に検知でき、補修につなげられる可能性がある。
構造物のモニタリングにMEMSセンサを採用したことは、画期的かつメリットも大きい。MEMSセンサは、従来の測定器よりもコンパクトで安価、磁石式なので厳しい環境下での施工も比較的容易に行える。
「圧電素子センサ」を用いたインフラモニタリングも開発中である。これまで構造物の疲労き裂の検知には「ひずみゲージ」が用いられてきたが、コストや消費電力が高く、長期的なモニタリングには不向きであった。圧電素子センサは100円玉ほどの大きさで1枚数十円と安価な上、電源が不要なため省電力モニタリングが可能だ。大型試験体による試験では、疲労き裂の生じやすい溶接止端部において、疲労き裂の発生だけでなく疲労き裂の進展度合いも検知できた。
2019年度は、センサ技術、IoT技術、再生可能エネルギー技術を活用し、モニタリングシステムをさらにブラッシュアップしていく方針。現状の課題は震災や災害時に遠隔地で計測データを監視できないことだが、これを解決するためにMEMSセンサ、スマートフォン、ソーラーパネルを組み合わせた無線計測システムの開発と実用性の検証を進めていく予定だ。
2.トンネルモニタリング
これまで数値分析を用いたトンネルモニタリングを検討してきており、2019年2月には、実際のシールドトンネルにてMEMSセンサを用いた現場計測を実施した。
トンネル内は狭い空間のため、災害や事故が発生しても大型の機械を使えず、被害箇所へのアクセスにも時間がかかる。しかし常時モニタリングしていれば、そのデータから適切な点検・補修・補強のタイミングなどを計ることが可能だ。2019年度は引き続きMEMSセンサを用いたトンネルモニタリングを本格的に行っていく。
3.沿岸災害と被害発生メカニズムの分析
これまで海外の沿岸災害の実態調査や被害発生のメカニズムを分析する研究を続けてきている。今年度は、スラウェシ島地震による津波災害の現地調査により、地震に伴う津波だけでなく、地滑りなどほかの要因で発生する津波のリスクを再検討していく必要性がわかった。沿岸部の津波災害に関する調査を引き続き進めていく。
インフラ領域では、この3本を柱に、老朽化インフラの維持管理と防災技術の向上を目指す。
環境領域
総合研究所 飯島健太郎 教授
環境領域では、グリーンインフラ(GI)を整備し、自然環境に備わる多様な機能を活用することで、「都市の防災・減災」、「ヒートアイランド現象の緩和」、「土壌汚染地域の環境浄化」、「地域自然源の保全」、「不動産価値の向上」などを実現することを目標にしている。2018年度までに自治体と共に進めてきた研究は以下の4つ。
1.ファイトレメディエーションによる重金属汚染対策
川崎市と連携し、臨海部(遊休地)の土壌汚染対策に有効な植物を調査。模擬汚染土壌における植栽実験では、Pb(鉛)濃度・集積量が高く、維持管理のしやすい多肉植物のセイロンベンケイに大きく期待できることがわかった。また現場に生育しているヨモギにも、ある一定のPb(鉛)含有量が認められた。今後は効果的な種まきの仕方や栽培方法を模索しながら現場応用を図っていく。
2.都市河川流域の緑地環境の立地・構造と雨水循環・生態系に対する機能の評価
横浜市と連携し、帷子川流域、および中堀川支流域における緑地環境の立地や構造を類型化。土地の特徴の把握や雨水の浸水予測などに利用できるようにした。また帷子川上流域にある若葉台団地では、外構植栽の雨水保持機能を計測・評価した。
3.等々力渓谷における生態学的調査に基づいた環境評価
世田谷区の協力のもと、「等々力渓谷清流化プロジェクト」を始動。等々力渓谷に生息する生き物や、水質、日照量などの調査を行った結果、適切に整備すれば様々な生物や植物とふれあうことのできるグリーンインフラの場として活用できることがわかった。
4.グリーンカーテンの温熱環境緩和効果の検証
横浜市の集合住宅において、グリーンカーテン設置による温熱緩和効果を検証。グリーンカーテンを利用している家は、グリーンカーテンのない家より優位に1.0℃低いことがわかった。
2019年度はそれぞれの研究成果をもとに、グリーンインフラをマネジメントすることを目指して社会応用化研究を続けていく方針。現在、様々な都市インフラが老朽化しメンテナンスが必要とされているが、改修時に緑地利用を促す建築や道路ネットワークなどを計画的に配置すれば、環境改善や減災、人々の健康増進にもつなげられるはずだ。環境を守り、人間生活を豊かにするため、今後も「緑地環境の環境不動産価値研究」、「自然資本の公益的機能に関する経済指標に関する研究」、「グリーンコミュニティに関する研究」などに取り組んでいく。
情報領域
工学部 今井龍一 准教授
情報領域では「都市活動のモニタリングシステム」を確立する手法を模索している。高齢者が住みよい未来都市を実現するには、シニアライフマーケティングの視点が必要だ。高齢者の回遊特性を探り、都市構造や地形、インフラなどが抱える問題点を抽出し分析すれば、潜在的な将来需要を満たす街づくりや支援につなげることができるだろう。
世の中には、スマートフォンの位置情報、交通系ICカードの履歴、カーナビの移動軌跡、人流センサ、運送会社の配送情報、降雪センサなど様々なデータがある。適切に分析すれば、ヒト・モノ・コトの振る舞いや動きにとどまらず、インフラ施設の状態までも把握できるようになる。特にスマホが普及している今は、一人ひとりがセンサになる時代だ。この先もコンピュータリーダブルなデータはますます充実していくだろう。都市活動のモニタリングシステムを確立するには、データの収集手段や組み合わせ方を見極め、賢く使いこなすことが勘所になるはずだ。
モニタリングの可能性を探るため、立川をフィールドに実証実験を行った。その結果、0.5㎞~1㎞メッシュの人口やトリップ数、Wi-Fiパケットセンサによる施設滞在人数や滞留時間、スマホアプリを利用した移動手段と経路情報(オプトインの位置情報)を可視化することで、都市活動を常時観測することが可能であることがわかった。都市活動をモニタリングできれば、シニアにもやさしい街づくりに活かせるだろう。
2019年度は民間事業者などと協力してさらに実証実験を行い、都市活動のモニタリングシステムの構築を目指していく。
後半では、生活領域と健康領域の活動内容についてレポートする。