未来都市研究機構主催の総研セミナーが10月29日(金)に開催されました。テーマは「空地の利用と未来のコミュニティ生成」です。
都市の中には、人口減少などの理由で空いた土地が増え続けています。一方で、その空地を有効活用し、コミュニティ形成につなげる活動も目立っています。今回のセミナーでは、そんな空地・空間を活用した今後のコミュニティ生成について、各専門家からそれぞれの観点で語られました。1つ目の事例講演には、宇都宮大学地域デザイン科学部 准教授 石井大一朗氏が登壇。空地の利用とコミュニティ生成についてお話しいただきました。
「ちょっと立ち寄る」がない車社会で、コミュニティを生成するには?
私は前職では、横浜市や藤沢市のNPOにて経営や現場支援活動などを10年ほど行っていました。宇都宮大学に東日本初となる地域デザイン学部が設置されるのを機に、自ら応募したという者です。2015年から家族で栃木に移住しました。地域自治を専門に研究しており、その観点からコミュニティ生成における学術的な分析方法を日々模索しています。
車社会の栃木は、人と人が偶発的に出会う場所がほとんどありません。この環境において、“ちょっと立ち寄る”空間形成を目的とした実践例を2つご紹介します。
1つ目は栃木県北部、大田原市での現在進行中の事例です。「世界一ベンチ密度が高い街にしよう」をテーマに、市街地に30メートルごとにベンチを置くというプロジェクトです。商店街・自治体にもご協力いただいています。小さな活動ではありますが、徐々に反響を呼び、活動開始から3年ほど経った今では、ベンチの置き場所がないという状態になりました。人と人とのコミュニケーションが街全体に広がっている印象です。車社会でのコミュニティ生成において、人の動線をどうつくるかが重要なカギであることを知ることができた取り組みでした。ちなみに、当初はベンチを置いても実際に座る人は少ないことが判明したのですが、「どうぞご自由にお使いください」という専用ステッカーを貼ることで、人は座りやすくなると判明したのも大きな発見です。
世界一ベンチ密度の高い界隈に。みんなのベンチをつくる。
2つ目は「公共用地を住民にどのように開くか」を課題とした事例です。現在私は、国の公共用地を上手に活用するというプロジェクトを宇都宮市と真岡市と進めており、地域の方とともにチームを形成しています。このプロジェクトで興味深かったのは「パブリックサイン」が重要であるということです。かねてより河川敷沿いに公共の芝生広場があったのですが、実際に利用する人は少ないという状況が続いていました。そこで、芝生の中央にパブリックサインを設置してみたところ、さまざまな変化が起こったのです。例えば、ジョギング中の人が芝生に入ってきたり、犬の散歩中の人が犬を遊ばせたり。また、そのパブリックサインを撮影する人も多く見られました。つまり、パブリックサインによって人の動線が生まれ、多くの人が足を運んでくれるようになったのです。パブリックサインはInstagramでも反響を呼び、その後マルシェが開催され、空間が今までにない多様な方法で活用され始めています。場の価値を上げるパブリックサインの有効性を感じられる取り組みでした。
(上)誰も利用しない河川敷で、芝を刈り、大きなパブリックサインを置くことで人の流れがかわり居場所がうまれる。将来は市民や事業者に借りてもらい財源を獲得へ。
(左下)ドッグランのスペースとしての社会実験も。
(右下)場に期待をつくるパブリックサイン
釜川クリエイティブエリア促進プロジェクト
栃木県では両親の高齢化により、都会からU・Iターンで戻る70〜80年代生まれが近年目立っています。中には新しいことを始めたいという意識を持つ人も多く、そのような彼らとともに「釜川クリエイティブ協議会」を結成し、宇都宮の中心街で活動しています。これは多数のクリエイターが活動する釜川地区で、官と民が一体となり、水や緑を活かしながら街の発展を目指していくというものです。
ここで驚きだったのが、活動を続けるうちに希少な魚や鳥、昆虫が生息していることがわかったのです。始めたことです。私の専門分野外ではあるのですが、「生物多様性」の実現も空地利用における重要な視点であると気づくことができました。このような生物多様性を意識した研究も今後、積極的に実践していきたいと考えております。
コミュニティ生成を考えるための分析方法試論
最後は分析の話になります。人口減少や高齢化が進み、さらに単身世帯が増加する社会において、コミュニティ生成は何をヒントにすべきかという課題をかねてより持っていました。
コミュニティ活動は、社会階層や職業的地位が高い人ほど活動に参加しやすいと社会学で統計的に示されています。それ以外に、地方都市の活動に参加しやすい因子はないだろうかと、調査してみたのですが、統計的に優位になるものがまだ見つかってない状況です。
内閣府や総務省は20年くらい前から地域自治組織の改編を進めています。一方で、住民のニーズを把握しないまま、ただ単に組織を形成し、活動するというのは合理的ではないと私は考えます。そこで、70年〜80年代に発展した地方都市の郊外エリアにおいて、住民の活動欲求やニーズを主成分分析したところ、優位な成分が7つ発見されました。ここでは「合流しやすい活動」と「合流しにくい活動」があることが判明したのです。例えば、「公共の場所の利用」「趣味やお稽古」といった活動は合流しやすく、「祭りや催し」「子供への学習支援」は合流しづらいという結果となりました。これらの分析調査をベースに、行政と協働交渉しながら地域自治組織の改編を進めているという現状です。
廃本のリユースを活用した居場所づくりも進めています。
石井 大一朗(イシイ ダイイチロウ)
宇都宮大学 地域デザイン科学部 准教授