未来都市研究機構において、2020年度から2021年まで「都市マネジメント研究ユニット」が発足。これまでの活動と今後の展望についてご紹介します。UDXを活用したマネジメントの手法が、人間中心のまちづくりに果たす役割を考察します。今回は、ユニット長を務める都市生活学部の北見幸一准教授、都市生活学部の沖浦文彦教授、協業しているベンチャー企業、株式会社Liquitous(リキタス)の栗本拓幸氏、琴浦将貴氏、栗栖翔竜氏にお話しいただきました(後編の記事はこちらです)。
沖浦文彦教授、北見幸一准教授、栗本拓幸氏、琴浦将貴氏、栗栖翔竜氏(写真左から)
個からのまちづくりを後押しするUDXの可能性を追求
北見准教授:未来都市研究機構の第2フェーズでは、都市問題の課題を解決するため、UDX(アーバン・デジタル・トランスフォーメーション)を活用した都市マネジメント手法を開発することがテーマとなりました。都市の未来の実現には、過去の積み上げから未来の目標に近づくのではなく、未来のあるべき姿を最初に描き、そこから課題を解決する必要があります。
UDXは、DX(デジタル・トランスフォーメーション)の呼び名の通り、デジタル技術を活用し、都市をまるごと変革していこうという試みです。ミクロの視点では、空地(低未利用地)の活用方法を実験しています。港区に設けた空地を地域住民が自由に出入りできるパブリックスペースとして開放しました。各所にセンサーを設置して、データを取得しながら地域コミュニティのマネジメントの形を模索していく研究です。
一方、マクロの視点からは、沖浦先生を中心に、都市レベルで地域住民自らが参画して住みやすいまちをつくる研究を行っています。いわゆる「超スマートシティ」の実現です。こちらもデジタル技術を活用して、地域の課題を見える化し、合意形成を図るマネジメントの在り方を検討しました。この取り組みでは協力企業のリキタスさんに、デジタルテクノロジーの力を借りています。意見の取りまとめから見える化、合意形成まで行うプログラム、「デジタル合意形成プラットフォーム」の実証実験をしています。住民が地域への参画意欲や地元への愛着の度合いを数値化し、地域の課題を解決するための指標となるべく、調査を始めています。現在進行中なのが、人口約4,000人の中山間地域、高知県の土佐町での調査です。18歳以上の全住民を対象に、意識調査を分析中です。
沖浦教授:UDXに関連しますと、都市の進化に、どうしてデジタル化なのかというお話はあると思います。DXはすでに市民権を得ている言葉ですが、デジタルの特性の一つに個別性が挙げられます。まちづくりは個の考えと全体の整合です。従来は何年かに一度、投票行動でしか意思表示できなかったのが、現在はさまざまなチャンネルが増えました。志のある有志が、まちづくり運動に取り組む形もいろいろ生まれています。
そうした中で、個の特性に強いデジタルを活用すれば、より進化した地域の在り方が形作れるのではないかという問題意識には共感できます。まちづくりに熱心な人の割合は、実はそれほど多くありません。その他大勢の人は当事者意識あまり強く持ち合わせず、関心も高くない。そうした状況を変えていかなければ、これからの社会を変革する試みは、その実現が困難となります。
従来のように人口が増え、リソースも増えて明日は皆が揃ってハッピーになるという時代はそれもよかったでしょう。けれども、これからは縮小減退の時代です。日常生活のストレスが大きくなります。個々のニーズや、さまざまな困り事が出てくるでしょう。課題の解決には、段階を踏んで合意形成しながら、物事を決めていかなければなりません。そうした状況の時にこそ、デジタルを使ったツールの可能性があります。DXが変革をする力を、研究では考え続けたいと思います。
ベンチャー企業と共同して技術とまちづくりをつなげる取り組み
リキタス栗本CEO:私たちは民主主義のDX(デジタル・トランスフォーメーション)をテーマに事業を行うベンチャー企業です。行政や市民社会の課題に対して市民の皆さんと行政の皆さんの間のコミュニケーション・エージェントとなることが私たちの役割です。その中で、オンライン上の参加型合意形成のプラットフォームを開発しています。市民の皆さんと行政が意見交換を通してアイデアの発散やプロジェクトの共創を行う仕組みです。
これを世の中に実装していく時、私たち単独ではできることに限界があります。これまで都市研究の分野で知見を培ってきた未来都市研究機構の皆さんと、調査研究する機会を得ることができました。DXを通したSociety5.0到来が叫ばれる中で、都市の再設計によって、まちづくりがどのように変化をしていくかを議論している大学は多くありません。技術的なアプローチを考えつつ、既存のまちづくりの領域の部分も取り出しながら、技術とまちづくりをつなげていく。それがまさにUDXの本質だと思います。単にコンセプトだけのUDXではなく、具体的な検証、評価を通して、私たちも都市大の皆さんと実践をしていきたいと思います。
デジタルツールと使い手の間の好循環をいかに創れるか
リキタス栗本CEO:一般論では、日本人はまちづくりへの参加認識が必ずしも高くないとされています。ただ、それは事実なのでしょうか。実際は、パブリックではない場所で、小さなことがらでも想いやアイデア、気づきを言葉にしているかもしれません。私たちが、日本の社会はこうである、と思い込んでいる部分と、実際の人々の認識と行動を、今後の調査では明らかにしたいです。
もう一つは、デジタルに対する認識です。日本の高齢者はデジタルデバイドの影響を受けているという偏見が強くあると思います。ただ、自治体によっては、高齢者のスマートフォンの普及率がかなり上がってきています。中山間地域の土佐町の皆さんにも、どの程度デジタル技術の受容度があるかを明らかにしていければと考えています。
沖浦教授:スマートフォンを使うと、生活が便利になるという実感が伴えば、高齢者にも必ず導入が進みます。ツールの議論は昔からあって、ドリルを買ったら穴を開けたくなるけれど、顧客はドリルが欲しいのではなくて、穴が欲しいのだと。その理論はデジタルでも変わりません。取り組むべきは、デジタルツールと使い手の間の整合ですね。ツールを使うことで相手方の環境がよくなる。相手方の環境がよくなることで、ツールもブラッシュアップされる。好循環をいかに創れるかが、デジタルデバイド解消の鍵になります。土佐町のような、取り組みに意欲的な自治体と、パイロット版となる実験を実施していく意義があります。
北見 幸一(キタミ コウイチ)
所属:都市生活学部 都市生活学科
職名:准教授
出身大学院:立教大学 博士 (経済学研究科) 2009年 修了
取得学位:博士(経営学) 立教大学 2009年
研究分野:経営学
キーワード:マーケティング、ブランド戦略、広報戦略
沖浦 文彦(オキウラ フミヒコ)
所属:都市生活学部 都市生活学科
職名:教授
出身大学院:大阪大学工学研究科環境工学専攻修士 1991年 修了、法政大学社会科学研究科経済学専攻修士 1998年 修了、千葉工業大学社会システム科学研究科マネジメント工学専攻博士2018年 修了
取得学位:博士(工学) 千葉工業大学 2018年
研究分野:マネジメント、国際協力、人材育成
キーワード:プログラムマネジメント
栗本 拓幸(クリモト ヒロユキ)
株式会社Liquitous CEO
琴浦 将貴(コトウラ マサキ)
株式会社Liquitous Researcher / CTO
栗栖 翔竜(クリス ショウタ)
株式会社Liquitous Researcher / Communicator