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地域再生、および働く子育て世代を支援するための情報技術の活用について

未来都市編集部615 views

都市・地域計画とエリアマーケティングの専門家である林 和眞(イム ファジン)講師に、「オールドニュータウン再生に向けた情報技術の活用」と「空間情報からみる働き方とコミュニティへの支援策」についてお話を伺いました。

オールドニュータウン再生に向けた情報技術の活用

オールドニュータウンの調査概要

韓国・国土研究院の宋河承氏と共同で、オールドニュータウンの調査研究を進めています。孫氏は韓国の住宅・不動産の専門家ですが、日本のオールドニュータウンの再生化に強い関心を持っており、昨年12月より客員研究員として未来都市研究機構に所属し、共に本研究に取り組んでいます。

林 和眞 先生

高度経済成長期を支えたニュータウンは近年、高齢化・人口減少・建物の老朽化などが進み、「オールドニュータウン化」が加速しています。ニュータウンは都市部に集中する労働者の受け皿として、都市計画の一環で新たに造成された市街地ですが、経済の鈍化や少子高齢化などを背景に活気を失い、今や街の循環が停滞しつつあります。

この状況に危機感を抱く各ニュータウンでは、再生に向けたさまざまな取り組みを行っています。東京を代表する「多摩ニュータウン」もそのひとつです。私たちは、国内最大規模のベッドタウンの現状を分析することで、街を再生するための糸口を見つけることを目的に研究をスタートしました。

私たちは、ニュータウンの老化に対してある仮説を立てています。
ニュータウンに中間層(ホワイトカラー)が多く住むようになったのは、その人たちのために市街地をつくったからです。ニュータウンの定住者は、俗にいうサラリーマン家庭で、3~4LDKの住宅に4人家族で暮らすといった風に、主に同じような働き方、収入、家族形態の人たちで構成されています。その人たちがそのまま年を取り、若い人たちはどんどん巣立ち、子育て世代は都心回帰でより通勤に便利な住居を選択する……。つまり、限られた人に向けた街づくりが、街の循環を滞らせる大きな要因になっているのではないか、というのです。
このことは郊外ニュータウンが抱える根本的な問題かもしれません。

林 和眞 先生

ただ、多摩ニュータウンに関しては、再生に成功している事例もたくさんあります。団地などのリノベーションや建て替えによって、子育て世代の回帰が一部で実現しているのです。そこで私たちは、多摩ニュータウンをモデルケースに、現在はどんな街なのか、本当に再生や世代循環ができているのか、実は衰退していないかといったことなど、情報技術を活用して分析を続けています。

モバイルデータの利用方法

調査には、NTTドコモのモバイルデータを利用しています。多摩ニュータウンは多摩市、町田市、八王子市、稲城市の4つの地方自治体の境界にある市街地です。住民の統計データは各自治体で管理しており、現状では地区全体の正確なデータを誰も把握できていません。そのため、個人に紐づくモバイルデータを利用することで、自治体の垣根を越えたデータを集約できるのではないかと考えています。
交通系ICカードのデータを利用することもできますが、必ずタッチポイントが必要なこと、起点と終点はわかってもその先の行動がわからないことなどから、GPSで多くのことを把握できるモバイルデータの方がより詳細な分析に適しているといえるでしょう。

モバイルデータの抽出条件は、平日の通勤時間帯と週末に設定しています。通勤先は都心なのか郊外か、住まいはどの辺か、どこから来ているのか、年齢、性別、国籍など、NTTドコモより提供された抽出データを基に現在分析している最中です。当然ながら、個人情報が匿名化されたものを利用しています。
分析の結果、多摩ニュータウンにおける昼夜人口の格差は少なかったです。しかし、実際に動いた人の流れを見ると、毎日10万人が多摩ニュータウンに流入し、多摩ニュータウンの居住者の半数以上はニュータウンの外へと移動することがわかりました。職住近接を目指して作られた多摩ニュータウンですが、大学生の移動が主な地域となっていました。
また、これからは詳細な拠点分析により、いつ、どのような空間にどのような人が集まっているかについて考察を深めていきます。

多摩ニュータウンにおけるモバイルデータを用いた都市生活行動の分析

出典:浅原(2019)をもとに林加筆
浅原拓実・林和眞・宋河承(2019)多摩ニュータウンにおけるモバイルデータを用いた都市生活行動の分析、GISA 地理情報システム学会第28回学術研究発表大会

この研究によりこれまで分析されていなかった人の動きや空間の広がりを時系列で明確化できるのは、意味のあることだと感じています。また外国人の視点でアプローチすることで、違った角度から現状を把握できるのではないかと思っています。

韓国のニュータウンの現状

もうひとつ研究目的に掲げているのは、日本と韓国のニュータウンの比較です。現在、日本と同様に韓国でもオールドニュータウン化が進みつつあります。韓国のニュータウンは日本のニュータウンをモデルに造成されたもので、開発は10~20年ほど遅れてはいますが、同じような道をたどるのではないかと推測されています。そのため、私たちは両者を比較分析することで、未来に役立てることができるのではないかと捉えています。

韓国のニュータウンをみると、活性化している地区とゴーストタウン化している地区の二極化が進みつつあります。韓国では、一軒家よりも資産価値のあるマンション(※韓国ではアパートといいます)の人気が高く、場所によっては購入価格の倍近くまで高騰するところもあります。日本の住宅は減価償却が前提ですが、韓国ではマンションの価格は上昇するのが定説で、根本的な市場原理が少し異なります。

林 和眞 先生

しかし昨今、ソウル近郊にあるニュータウンのマンションの価格は全国平均よりも伸びておらず、むしろ下がってきています。価格が上がることが前提の韓国においてこの状況はかなり不利です。建て替えの財源もあまり確保できておらず、福祉システムもまだ弱い。このままでは衰退の一途をたどって、日本よりさらに深刻な状況に陥る可能性も否定できません。ただ市場価値がそれほど高くない場所でも再生できているところがあるのも事実で、それはなぜなのかを探っていきたいです。

また、先ほど韓国では日本のニュータウンをモデルにしたと述べましたが、開発方法に多少の違いがあります。韓国では国が主体となって都市計画をつくり、公社のような特定企業に一任してトップダウンで基盤をつくるのが一般的です。しかし、マンションなどの住宅建設にはさまざまなゼネコン(建設会社)が参画するため、統一感のないつくりになります。一方、日本では、国だけでなく自治体や民間がデベロッパーになることもあります。開発主体の違いによってどれだけ異なるのかも調査したいポイントです。

オールドニュータウンを再生させるには

多摩ニュータウンに話を戻すと、さまざまな施策によって子育て世代の呼び込みに成功しているところもありますが、市場価値の高い駅近辺などに限られ、そうでないところは置き去りにされている傾向も見えます。たとえば一軒家の高齢者世帯が多く、交通の便がよくない場所などです。このような場所がどのくらいあるのかも、検証する必要があるでしょう。取り残されている場所を今後どう活性化していくのかが、再生の肝になります。

今は、次から次へと新しいものをつくる時代は終わり、これまで築かれてきた遺産をメンテナンスしつつ、少しずつ良い方向に変えていく時代です。スマートシティのようにAIやIoTとの融合も考えてく必要があるでしょう。情報技術によって都市を豊かにすることを目的としたスマートシティは、世界的にも最重要国家戦略として注目されています。日本では地方創生のモデル都市として会津若松などでスマートシティが採用されていますが、韓国でも新都市をスマートシティの特区に位置づけ、住人にさまざまなメリットを与える代わりにデータ取得の了承を得て、研究に活用しています。

スマートシティ化は、自治体の決定次第ではありますが、多摩ニュータウンなどでも実現可能です。私たちの研究によって街の再生にはスマートシティ化が必要だとなったときに、採用してくれるのであれば嬉しいです。

今後に向けて

今年いっぱいは現状分析に時間をかけ、来年以降は行政主導の多摩ニュータウンと東急グループ主導のたまプラーザを比較したいと考えています。たまプラーザは世代循環ができているエリアです。それはなぜなのか、行政と民間主導の違いを探りたいと思っています。また韓国には民間のデベロッパーはほぼないので、日本と韓国を比較する上でも興味があります。

日本はアジアの中において先駆けて老化が進んでいます。都市の研究は欧米が先行していますが、欧米型の都市研究はアジアには合いません。アジアの都市圏はどうあるべきかという結論はまだ出ていないのです。これは最も近代化に成功した日本が先頭となってやるべきことだと思います。日本の研究成果は、アジアの都市圏を中心に活かせるはずです。

またこれからの都市づくりに必要なのは、協議によって住人のコンセンサスを得たうえで、少しずつ改善していくことです。大規模な都市計画に基づき、一気に中央集権型の街づくりをする時代はどちらかというと終わりに近づいています。都市の再生やメンテナンスには、合意と時間を要するフェーズに入ってきているのです。そんな時代だからこそ情報技術を活用し、スムーズに合意形成ができるように役立てればと思います。

空間情報からみる働き方とコミュニティへの支援策

もうひとつ、ある民間企業の支援の下で現在進めているのが、空間情報を活用した子育てをサポートするための研究です。コミュニティと街づくりが専門の、東京大学大学院・まちづくり研究室のチームに参加して、全国の保育施設に関するもめごとについて調査しています。

特に働く女性にとって保育施設は必要不可欠なものですが、地域住民の反対に遭い、建設を断念する例もあります。なぜそのような問題が起こるのか、行政・地域住民・保育園の事業者などから丁寧に話を聞き、探っています。

林 和眞 先生

ヒアリング調査で見えてきたのは、保育施設の建設場所のミスマッチです。行政は、待機児童問題を解決するために保育施設を優先的に増やそうと努力していますが、きちんと配置計画を立てて進める余裕がありません。そのため、子育て世帯の多い地域ではなく、それほど必要としていない地域に建設されるといった現象が起きています。親は預けるために遠くまで足を運ばなければいけないし、保育施設を必要としていない近所の人からは不満が出たりする。この現状を知って、空間情報の最適化を考えるべきだと強く思うようになりました。

現時点で最も良いと思われるのは、マンションなどの集合住宅をつくるときに、保育施設を併設させることです。デベロッパー側が人を住まわせて終わりにするのではなく、ライフサイクルに合わせたサービスも考えていかなければなりません。私自身も待機児童問題の当事者として悩まされた経験から、この研究を通じて新しい保育のあり方を提示できたらと考えています。

空間情報は、「GIS(地理情報システム)」というツールに情報を取り込み、AIのアルゴリズムを使った予測などをしながら分析しています。たとえばある地域の子育て世帯と現在の保育施設の位置を入れれば、新たな保育施設がどの辺りに必要なのかが見えてきます。建設後の街の様子まで視覚的に見せて丁寧に説明することができれば、コンセンサスを得やすくなるでしょう。この技術は都市計画の合意形成にも役立つはずです。

多摩ニュータウンの研究でも空間情報を重視し、モバイルデータや国勢調査、パーソントリップ調査などさまざまなデータを重ね合わせて多角的な分析を続けています。とかく葛藤や誤解が生じやすい都市再生へ向けての取り組みが、この情報技術を用いることでスムーズに進められるよう、努力を続けていくつもりです。

林 和眞(イム ファジン LIM Hwajin)

所属:都市生活学部 都市生活学科・大学院環境情報学研究科 都市生活学専攻
職名:講師
出身大学院:東京大学 修士 (工学系研究科) 2010年 修了・東京大学 博士 (工学系研究科) 2013年 修了
出身学校:岡山大学 (環境理工学部) 2008年 卒業
取得学位:博士(工学) 東京大学 2013年
研究分野:交通工学・国土計画・都市計画・建築計画
キーワード:交通工学・国土計画

ライター:未来都市編集部

東京都市大学 総合研究所 未来都市編集部です。未来の都市やまちづくりに興味・関心を持つ方に向けて、鋭意取材中!