2019年3月13日、東京都市大学二子玉川夢キャンパス(東京・世田谷区)にて、「未来都市研究機構 第7回セミナー インフラ領域(第144回総研セミナー)」が開催されました。
東京都市大学では「都市研究の都市大」を掲げ、「生活」「情報」「健康」「環境」「インフラ」の5つの研究領域を有する「未来都市研究機構」を中心に、魅力ある成熟都市形成に貢献するエイジングシティ総合研究を推進しています。その一環として、今まで技術や制度に関するセミナーを定期的に開催してきました。7回目となる今回は、「インフラの維持管理および都市防災」をテーマに発表が行われました。
これからの社会資本整備は、インフラの「長寿命化」が大きな課題に
まず未来都市研究機構の機構長(2019年3月時点)、都市生活学部の川口和英教授から、開催の挨拶とともに「社会資本の観点からみたインフラをめぐる今日の動向」と題した講演が行われました。
8年前の3月11日に発生した東日本大震災、にふれ、震災前と比べ、震災後はPPP(パブリック・プライベート・パートナーシップ:公民連携)や公共施設の建設、維持管理、運営に民間の資金とノウハウを活用し、公共サービスの提供を民間主導で行うPFI(プライベート・ファイナンス・イニシアティブ)、民間に運営を任せていくコンセッション方式といった民間機能を導入がされてきており、社会経済状況が大きく変化していると話す川口教授。また公共性、人々の信頼関係も含めた社会関係資本という考え方も出てきていて、いわゆる工学的な視点からだけではなく、人々の生活も含めた資本が現在大きく注目されているといいます。
さらにGDPに占める公共事業費が平成10年をピークに減少し、公共事業の位置づけも様々な点において変化してきている、と川口教授。「これからはすべてを作るのではなく、緊急性の高いもの、効果の高いものから選択していくことになるでしょう。また、戦後に作られ60年近く使われてきたインフラはかなり劣化していますので、『長寿命化』が大きな視点となっています。より長く使うための、老朽化したインフラの維持管理に注目が集まっています」
インフラの維持管理おけるAI、IoT、スマート化の技術活用については、関屋英彦准教授、白旗弘実教授、丸山收教授から発表される旨の紹介をしたうえで、川口教授は「不景気だから公共事業で景気を刺激する、という時代は終わりました。これはマンデル・フレミングの法則といわれ、変動相場制のもとでは、すでに長期にわたり証明されていることです。公共事業をとりまく環境は大きく変わってきていますが、改めてインフラという視点で未来の都市を考えるいい機会にしたい」という言葉で講演を締めくくりました。
橋梁を走行する車両の重量を測定、疲労き裂を検知するセンサに関する研究
続いて各研究の発表へ。前半の3題はインフラの経年劣化に関する内容、後半の2題は地震など突発的な災害についてです。
1題目は関屋英彦准教授の発表「各種センサ技術によるインフラの維持管理」で、大きく分けて2つの研究が紹介されました。
1つは、橋梁のモニタリング、外力の同定。関屋准教授は「常時における橋梁の主なダメージは車両の重量。疲労損傷に関しては、車両の重量の3乗がダメージとなるので、車両の重量を正確に測ることが重要です」といいます。
そこで関屋准教授が開発したのはMEMSセンサを活用した車両重量推定システム。橋梁にMEMSセンサを設置して、橋梁上を走っている車の重量や台数を把握する技術です。このセンサは塗膜の上からでもマグネットで設置が可能なので、10秒もかからずに設置ができます。センサは不動点がいらないというメリットもあります。現場で使用する他の計測機器に比べて安価で、施工性が良いという特徴がある。そして消費電力が低いので、長期的な計測に向いているという利点があります。
「MEMSセンサについては開発後、首都高速道路や国道にセンサを取り付けて実証実験を実施しています。今年度に入ってからは1年間にわたる長期計測のデータ分析を実施。外気温などの状態変化によらず、車両重量およびその台数を推定できるということが確認できています」と関屋准教授。
2つ目は橋梁の損傷の検知です。関屋准教授が研究しているのは疲労損傷です。これは繰り返しの車両の走行によって発生する損傷で、急に壊れる脆性破壊を起こす危険性があるもので、早期発見が非常に重要。しかしながら、見た目に分かりにくい、常時監視ができない、点検員が不足しているということから、現状のインフラ維持管理において課題を抱えています。この課題に対し、関屋准教授はセンサによる疲労き裂の常時監視システムを開発しました。
疲労き裂が発生すると周辺の力の集中具合(ひずみの分布)に変化が生じることから、変化をセンサで検知するというのが監視システムの仕組み。従来は「ひずみゲージ」という計測機器が実験室等で採用されていましたが、高コストかつ高消費電力であることから現場における長期計測に向いていないという課題がありました。そこで、関屋准教授は圧電素子センサを活用したシステムの構築を行っています。圧電素子センサは100円玉くらいの大きさで、ひずみの変化に応じて電圧を出力するので、センサ部に関しては電源がなくても駆動でき、長期計測に向いています。また、1枚数十円と非常に安価です。すでに大型試験体での実験が行われ、今後実際の橋梁への設置が予定されているとのことです。
川口 和英(カワグチ カズヒデ)
所属:都市生活学部 都市生活学科 大学院環境情報学研究科
職名:教授
出身大学院:早稲田大学大学院 修士 (理工学研究科建設工学専攻) 1986年 修了
出身学校:早稲田大学 (理工学部) 1984年 卒業
取得学位:博士(工学) 早稲田大学大学院 2001年
研究分野:都市計画・建築計画
関屋 英彦(セキヤ ヒデヒコ)
所属:工学部 都市工学科
職名:准教授
出身大学院:東京工業大学 修士 (理工学研究科) 2011年 修了
出身学校:東京工業大学 (工学部) 2009年 卒業
取得学位:博士(工学) 東京都市大学 2016年
研究分野:構造工学、維持管理工学、橋梁工学