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都市問題への解決策を探る:未来都市研究機構・都市マネジメント研究ユニットの狙いと展開 ユニット長・北見幸一准教授に聞く(前編)

未来都市編集部2,770 views

未来都市研究機構の設置のきっかけは、エイジングシティ問題、すなわち、人だけでなく都市のハードとソフトの高齢化に起因する諸課題に関する全学的な学際研究事業「未来都市研究の都市大」の推進にあります。2018年度から3年間は「生活」「健康」「情報」「環境」「インフラ」という5つの研究領域に分けられていましたが、2020年度からは新たに「グリーンインフラ」「データドリブン・デザイン」「IoT&情報通信技術」「ヒューマン・センタード・デザイン」「都市マネジメント」「VR×社会的交流の場の創生」、以上6つの研究ユニットが発足、研究が進められています。

本記事では、「都市マネジメント研究ユニット」においてユニット長を務める都市生活学部の北見幸一准教授に、都市マネジメント研究ユニットの狙いと展開についてお話をうかがいました。

北見幸一准教授

研究テーマは、UDXを活用した都市マネジメント手法の開発

都市問題の課題を解決するため、UDX(アーバン・デジタル・トランスフォーメーション)を活用した都市マネジメント手法を開発することが、我々のユニットのテーマです。

最近、DX(デジタル・トランスフォーメーション)という言葉をよく耳にされると思いますが、デジタル化とDXは別物です。デジタル化はすでに存在する事業や業務を効率化するために行うものですが、DXはデータやデジタル技術を活用し、うまく物事が進むように仕組み自体を新しく創り出していくものです。つまりUDXとは、Urban=都市のDX。AIやセンサー技術、ビッグデータ、IoTなどを活かしながら、毎日の生活をより暮らしやすい、豊かなものに変えていくという考え方です。

現在、都市マネジメント研究ユニットでは、都市もしくは都市圏レベルというマクロ的視点とコミュニティレベルのミクロ的視点の研究が進んでいます。

都市マネジメント研究ユニット 研究ポスター

スーパーシティを目指す前橋市で、持続可能なまちづくりを

まずはマクロ的視点の研究について紹介します。マクロ視点での研究例として、「日本のスマートシティにおけるファイナンスのあり方」があります。これは監査法人トーマツ(デロイト・トーマツ・コンサルティング)と共同で、都市生活学部の沖浦文彦教授を中心に進行しています。

人工知能やディープラーニング、センサーの技術、ビッグデータといった先端技術を活用して住みやすい都市を実現する政府のスーパーシティ構想。今年2月、その対象地域となる国家戦略特区に申請した前橋市を舞台に「超スマート自治体化」実現のための、新たなファイナンス手法を切り口に、そのマネジメントのあり方を検討していきます。

前橋市

前橋市

従来のまちづくりは、国や行政が全部計画をして民間に委託するという形が多かったのですが、地域によって抱えている課題は異なるため、行政が何から何まで準備するのも難しい状況になってきました。現在は、積極的に民間に入ってもらってまちづくりをしていくことが重要だと政府も提唱をしています。

マクロ視点での研究にあるファイナンスというのは、まちづくりに必要なお金のことです。現在、スマートシティに関する実証実験がさまざまな自治体で行われていますが、それは補助金が出ているからです。補助金がなくなったらまちづくりが止まってしまうようではどうしようもありません。持続可能な都市マネジメントという観点から「お金をどうやって創出するのか」というファイナンスを含めた都市マネジメントが必要となってきます。税金ですべて賄うのではなく、民間の力を活かした価値の実現とそれに応じた資金調達・回収を行うことで、より持続可能なまちづくりが実現できると考えました。具体的にはSIB(ソーシャル・インパクトボンド)などを軸にしたファイナンスやマネジメントの仕組みを視野に研究を進めていきます。

SIBとはサービス提供者のサービス提供をするための費用について、民間資金提供者から資金調達を行い、行政と事前に合意した成果目標を達成できれば、後から行政が資金提供者へ成果に応じた報酬を支払うという資金調達の手法です。2イギリスで始まったもので、欧米ではよく行われていますが、日本ではまだごく一部の自治体が導入するにとどまっています。

自治体の都市マネジメント調査と住民意識調査の両側面からどのようにマネジメントすべきかを探る

現在はスーパーシティ構想の実現を助けるための基礎として「都市マネジメント調査」を行っています。350ほどの市(東京23区は特別区)の都市計画担当者からアンケートの回答をいただきました。インフラの老朽化、空き家、買い物難民など地域の課題やそれに対する取り組みの状況、また「スマートシティ」および「スーパーシティ」への認識・取り組みをたずねています。
同時並行で、「スーパーシティ」を標榜してる自治体の住民を対象に、インターネットで住民意識調査を行いました。住民の都市問題に対する意識や、スーパーシティの実現にカギになる個人情報の扱い等についてたずねています。自治体への都市マネジメント調査と住民意識調査の両側面から、どのようにマネジメントしていくべきかを探っていきます。

北見幸一准教授

スーパーシティは、まちづくりのひとつの手段にすぎません。「こうありたい」という街の姿を持っていなければ、協力する人も参加する人も現れませんし、結果としてうまくいかないでしょう。まずは住民の共感を得て、信頼を得ること。そして、住民自らが「自分ごと」として関与をする意識の変化が重要に思います。そのあたりからしっかりと考え、進めていく必要があります。

※取材時には、まだ具体化されていませんでしたが、「都市マネジメント研究ユニット」では、地理空間情報などのデータ活用とそれらを通じたEBPM(エビデンス・ベースト・ポリシー・メイキング:エビデンスに基づく政策立案)の推進、また同取組の具体例として自治体保有データ等を活用した空き家分布推定技術の開発についても、研究を進めていきます。

北見 幸一(キタミ コウイチ)

所属:都市生活学部 都市生活学科
職名:准教授
出身大学院:立教大学 博士 (経済学研究科) 2009年 修了
取得学位:博士(経営学) 立教大学 2009年
研究分野:経営学
研究分野/キーワード:経営学、 マーケティング、ブランド戦略、広報戦略

ライター:未来都市編集部

東京都市大学 総合研究所 未来都市編集部です。未来の都市やまちづくりに興味・関心を持つ方に向けて、鋭意取材中!