MENU
MENU

健康領域における3年間「センサネットワークを活用した高齢者の見守り」

未来都市編集部3,885 views

東京都市大学では「都市研究の都市大」を掲げ、「生活」「健康」「情報」「環境」「インフラ」の5つの研究領域を有する「未来都市研究機構」を中心に、魅力ある成熟都市形成に貢献するエイジングシティ総合研究を推進しています。また本学の「都市研究の都市大:魅力ある未来都市創生に貢献するエイジングシティ研究および実用化の国際フロンティア」事業が、文部科学省の平成29年度私立大学研究ブランディング事業(タイプB:世界展開型)に選定され、これまで3年間にわたり、それぞれの領域において研究を重ねてきました。

本記事では、健康領域において研究を行っている理工学部の柴田随道教授と都市生活学部の末繁雄一講師に、この3年間の研究成果と今後の展望、「センサネットワークを活用した高齢者の見守り」について話を伺いました。

第1回の記事はこちらをご覧ください。

増えていく独居の高齢者に、センサネットワーク使った見守りを

柴田教授
この3年間の健康領域のトピックスの2つめは、私が取り組んできたセンサネットワークを活用した高齢者の見守りです。現在日本の総人口に占める65歳以上人口の割合(高齢化率)は28.4%(2019年)。この先も増えていくことは確実です。また独居の高齢者の増加も著しく、2035年には、ひとり暮らしの高齢者が762万人になると予想されています。こうした状況を踏まえ、これからは見守りが重要になってくるでしょう。

離れてひとり暮らしをしている親御さんの見守りもそうですが、人手不足が懸念されている老人ホームやリハビリの施設などで、利用者の体調が急に悪くなった際により迅速な対応をするためにも、センサネットワークを使った技術が役立つと考えています。

柴田随道教授

「センサネットワークを活用した見守り」の仕組みですが、高齢者が身につけているセンサーから電波を定期的に飛ばすようにし、屋内の複数箇所に設置したゲートウェイで受信。その電波の強度から機械学習技術を使って電波が発信された位置が推定できるというものです。どこかで動かないでうずくまってしまっているといった異常を、人工知能で感知した時にアラームを発信すれば、すぐに対応できますから、見守る側は安心して過ごすことができます。また見守られている側も、カメラで見られているのとは違って、プライバシーに配慮したさりげない見守りですので、不快に感じることはありません。

センサネットワークに機械学習を組み合わせ、屋内での位置推定を可能に

柴田教授
見守りシステムの構築にあたり、この2年間は学生たちと一緒に位置推定の研究に取り組んできました。例えば広い大海原に浮かんだ船舶の位置であれば、3点で電波を受信すれば位置を容易に推定できます。しかし屋内の場合は壁があるせいで、電波が通りにくかったり反射したりするため、単純に電波の状態だけでは位置推定ができないという問題があります。

そこで屋内での位置測定をするために、大量のデータからパターンやルールを学習させる「機械学習」をセンサネットワークと組み合わせることにしました。「こういうパターンの電波を受信したら、ここにいるはず」という測定データをいくつか用意し、それを教師データとしてAIに学ばせるという方法です。

位置情報の推定実験は、コンクリートの壁によって隔てられた4つの部屋を、見守り対象がいる施設として想定、3つのゲートウェイを配置して行いました。その結果、85〜95%の確率でどの部屋にいるかを正しく推定することができました。

柴田随道教授

続いてハウスメーカーの協力を得て、モデルハウスで位置推定の実験を行ったところ、戸建ての住宅は電波の通りがよく、隣の部屋と間違えてしまうこともしばしばあったのですが、80%以上の確率でどの部屋にいるのかを推定することができました。

これらの実験は簡易的な機器を使って行ったのですが、それでもこれだけの正答率が出たということは、修正を重ねていくことで、さらに精度が上がると思われます。今後はほかのIoTと組み合わせるなど、さまざまなサービスへの展開を見据えて研究を続けていきたいと思います。

センシング技術を支える、無線電力伝送の研究も

柴田教授
よりエンジニアリングの話になってしまうのですが、この「センサネットワークを活用した見守り」に関連して、無線での電力伝送技術の研究もあわせて行っています。AIやIoTを用いたスマート社会を支えるセンシング技術への需要は高まっており、今後ますます世の中にセンサーが増えていくと思われますが、センサーは電気がなければ動かなくなってしまいます。どこにでもコンセントがあるわけではないですし、電池だと3年持ったとしても交換が必要になり、大変な労力がかかります。しかし無線で給電することができれば、こうした問題が解決されるのです。

柴田随道教授

現在、いくつか無線での給電の実用例はあります。例えばスマートフォン。ケーブルにつながなくても置いておくと給電できる機器がそうです。あとは車への無線での給電も研究が進んでいますね。これらは位置関係がある程度決まっているため設計がしやすいです。しかし「センサネットワークを活用した見守り」の場合は位置関係がさまざまの状態になるため、技術的に難しいところがあります。これに対して、常に給電効率を最大化する技術を開発しました。これについてもさらに研究を進めていきたいと思います。

第3回に続きます。

柴田 随道(シバタ ツグミチ)

所属:理工学部 電気電子通信工学科
職名:教授
出身大学院:東京大学 修士 (工学系研究科) 1985年 修了
出身学校:東京大学 (工学部) 1983 年卒業
取得学位:博士(工学) 東京大学
研究分野:電子デバイス・電子機器
研究分野/キーワード:集積化システム工学、集積回路、信号処理、センサネットワーク

末繁 雄一(スエシゲ ユウイチ)

所属:都市生活学部 都市生活学科
職名:講師
出身大学院:熊本大学 博士 (自然科学研究科) 2007年 修了、熊本大学 修士 (自然科学研究科) 2002年 修了
出身学校:熊本大学 (工学部) 2000年 卒業
取得学位:博士(工学) 熊本大学 2007年
研究分野:都市計画・建築計画
研究分野/キーワード:都市計画、建築計画

ライター:未来都市編集部

東京都市大学 総合研究所 未来都市編集部です。未来の都市やまちづくりに興味・関心を持つ方に向けて、鋭意取材中!