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「買い物難民」「買い物弱者」「買い物困難者」を支援するには

未来都市編集部5,850 views

東京都市大学では「都市研究の都市大」を掲げ、「生活」「健康」「情報」「環境」「インフラ」の5つの研究領域を有する「未来都市研究機構」を中心に、魅力ある成熟都市形成に貢献するエイジングシティ総合研究を推進しています。また本学の「都市研究の都市大:魅力ある未来都市創生に貢献するエイジングシティ研究および実用化の国際フロンティア」事業が、文部科学省の平成29年度私立大学研究ブランディング事業(タイプB:世界展開型)に選定され、これまで3年間にわたり、それぞれの領域において研究を重ねてきました。

本記事では、生活領域ユニット長である東京都市大学都市生活学部の西山敏樹准教授に、この3年間の研究成果と今後の展望について話を聞きました。
前回の記事はこちらです。

西山 敏樹 准教授

日本で増加する、買い物困難者の食料品アクセス問題

持続可能な社会、生活環境をつくるために私自身がこの3年間で取り組んできた研究の一例を紹介します。

「買い物難民」「買い物弱者」「買い物困難者」という言葉を耳にしたことがあるかもしれませんが、日本では、少子高齢化や単身世帯の増加、地元小売業の衰退などにより、過疎地だけではなく都市部においても、食料品の購入に不便や苦労を感じる人が増えてきています。高齢者を中心に、障がい者、今後ますます増加していく外国人労働者、多忙で買い物の時間が取れない子育て世代などが当てはまりますが、こうした買い物困難者の食料品アクセス問題は、大変重要な社会的課題であり、都市生活のサポートとして買い物支援の仕組みづくりが急がれています。

現在はスマートフォンが普及し、商品の発注や決済が簡単にできるようになりました。そこで誰もが利用しやすい持続可能な買い物環境として、スマートフォンがベースの買い物支援システムを構築し、バージョンアップを重ねてきました。

この買い物支援システムへは、個人カードのQRコードを読み込むことによって入ることができます。その人の専用ページとなっていて、買いたいものをタップして、決済ボタンを押せば荷物が自宅まで届くという仕組みです。住所やクレジットカードなど支払い方法の情報はあらかじめ登録しておきます。

一般の食料品宅配のサイトは複雑な構造のものもありますが、このシステムは至ってシンプル。文字も大きく見やすい。また専用のページですので、買い物をするにつれAIが学習していき、よく買うものや好みに沿ったものを勧めたり、割引といったお得な情報が出てきたりするようになります。

高齢者の多いニュータウンを舞台に実証実験

千葉県八千代市にある八千代台団地を舞台に、A・Tコミュニケーションズという会社と共同で、この買い物支援システムの実証実験を行いました。1965年に誕生した八千代台団地は、この時代に全国でつくられたニュータウンの先駆け的な存在です。そして他のニュータウンと同様に、居住者の高齢化と、それに対応したバリアフリー化がなされない「ニュータウン問題」を抱えています。

75歳を超えた多くの居住者にとって、エレベーターのない建物で家まで荷物を持って帰るのは大変です。またニュータウンは駅前など買い物ができる施設から離れていることが多いため、ますます買い物が難しい状況になっています。しかし、子どもがいたとしても独立して別の場所に住んでいるため老老世帯や独居世帯がほとんどであることから、買い物を助けてくれる人が周りにいないのです。

西山 敏樹 准教授

この実証実験にはお年寄りや子育て中のお母さんなど、買い物しづらい理由を抱えた男女10名に参加してもらいました。実験を始める前に参加者にはスマートフォンの使い方について、15分ほどレクチャーをしたのですが、お年寄りはスマホを持っているけれど、あまり機能を使えていない人が多くて驚きました。「アプリって何?」「ダウンロードって何?」「買った時のままじゃ使えないの?」とそういうレベルでしたが、結局3日間の実験でシステムを実際に使って買い物をしてもらった結果、脱落する人はひとりもいませんでした。

買い物支援システムに「地産地消」を組み合わせる

この実証実験の大きな特徴は買い物支援システムに「地産地消」を組み合わせた点です。八千代台団地の近くにいる生産者に参加してもらうことで、採れたての新鮮な野菜を購入することができるようにしました。みなさんは食の安全への意識が高く、地元で生産された野菜は大変好評でした。

また自分専用のページから、掲示板のようなものを通して生産者さんと双方向のコミュニケーションを取ることもできます。例えば利用者は「おいしかった」「家族が少ないのでもう少し小分けにした商品を作ってほしい」といった感想やニーズを伝えることができますし、それに対し生産者は「2個入りを作りましたので、よかったら買ってください」と返信できるといった具合です。生産者とコミュニケーションが取れるのも、みなさんうれしいようでした。

現在、野菜に追跡できるコードを貼って、どの農家さんがいつ収穫して、どのように運ばれてきたかがわかるように、年度末に向けて改良を加えているところです。

集荷まで生産者が行うと負担が大きいので、注文が入った数を収穫したら、巡回する集荷担当者に渡すだけにしました。地域によってはトラックが余っているところもあるので、それを活用し、集荷や配送を担当する高齢者ビジネスを立ち上げれば地域のプラスになると思います。また集荷・配送を電気自動車で行えば二酸化炭素の排出量がゼロになり、環境への負荷を抑えることができるでしょう。

西山 敏樹(ニシヤマ トシキ)

所属:都市生活学部 都市生活学科
職名:准教授
出身大学院:慶應義塾大学 修士 (政策・メディア研究科) 2000年 修了 / 慶應義塾大学 博士 (政策・メディア研究科) 2003年 修了
出身学校:慶應義塾大学 (総合政策学部) 1998年 卒業
取得学位:博士(政策・メディア) 慶應義塾大学 2003 年
研究分野:社会システム工学・安全システム
研究分野/キーワード:ユニバーサルデザイン、福祉のまちづくり、都市交通、モビリティ論、社会調査法

ライター:未来都市編集部

東京都市大学 総合研究所 未来都市編集部です。未来の都市やまちづくりに興味・関心を持つ方に向けて、鋭意取材中!