MENU
MENU

モビリティ、人流シミュレーション、感染リスク評価…社会実装を見据えた中間領域研究(前編)

未来都市編集部1,103 views

東京都市大学では“未来都市研究の都市大”をコンセプトに掲げ、各領域で都市研究を重ねてきました。2020年度から2021年まで研究分野として「データドリブン・デザイン研究ユニット」が発足。本記事では、研究メンバーである理工学部 杉町敏之准教授、都市生活学部 末繁雄一准教授にこれまでの研究成果と今後の展望についてお話を伺いました。

後編の記事はこちらからご覧ください。

杉町敏之准教授と末繁雄一准教授

(左)理工学部 杉町敏之准教授 (右)都市生活学部 末繁雄一准教授

車両運動制御と自動運転支援システムへのドライバー特性評価<杉町敏之 理工学部 准教授>

私は車両運動制御や自動運転へのドライバー特性評価などをテーマに研究を行ってきました。近年ではドライバー不足の解消が課題となっており、自動運転技術を活用したトラックの隊列走行システムが解決策として期待されています。隊列走行は安全性だけではなく、周辺車両への受容性も必要となります。

これらを検討するために、開通前の新東名高速道路でトラックの隊列走行システムの実証実験を行いました。また、技術実証以外にドライビングシミュレータを用いて隊列走行システムの仕様やインフラ要素が周辺のドライバーに与える影響を評価しました。その結果、合流部で遭遇する際にトラックの隊列走行の車間距離が周辺のドライバーの心理的負担に影響を与えることが明らかとなったのです。トラックの隊列走行システムの最終的な目標車間距離は4mで設定されていましたが、これは割り込みをするには短いものの、恐怖心も感じやすい距離と言えます。そこで、車間距離の条件を4m、10m、20m、30mとして評価を行いました。想定通りに車間距離4m未満では割り込み行動は起こらず、車間距離10m以上では割り込み行動が起こる可能性があることが確認されたのですが、20mが最もドライバーの心理的負担が高いという意外な結果となりました。このことは、多くの被験者にとって車間距離20mが割り込み行動の可否を分けるジレンマゾーン(ドライバーが判断に迷う範囲)であることを示唆しています。そのため、周辺車両への受容性を確保するためには単純に物理的な指標だけではなく、人間の心理や感性も合わせて評価することが重要となります。

杉町敏之准教授

また、自動運転においては、独自のエコシステムが注目されています。エコシステムとは、経済やIT業界においては複数の企業や登場人物、モノが有機的に結びつき、循環しながら広く共存共栄していく仕組みのことを指します。自動運転は“車が自動化する”というものではあるものの、その社会実装にあたっては、従来と同じ産業構造で良いとは言えません。保険、行政、情報通信業、運輸業、サービス業、製造業、学術研究機関とすべてのパートナーがコミットできるような、社会受容性を確保した仕組みが求められます。この自動運転のためのエコシステムの構築も課題となっているのです。

現在、国土交通省では「多様なニーズに応える道路空間」という計画を推進しており、賑わい空間の創出や、物を販売する自動運転車やパーソナル・モビリティ・ビークル(PMV)など、人と新たなモビリティとの共存が視野に入れられています。

そこで、人と新たなモビリティとの親和性を高めることができないかと、PMVとの相対距離が歩行者に与える影響を評価する実験を行いました。実験参加者はヘッドマウントディスプレイで約28秒の実験用映像を立った姿勢で見て、その後にアンケートを回答するというものです。ここでは「当事者視点」と「客観的視点」という2つの視点からの感性評価分析を行いました。その結果、障害物に対しては、歩行者とリーン車両との相対距離と比例して受容性が向上する可能性が示されたのです。これを踏まえて人間の感性をモデル化し、新たな自動運転の制御技術に応用していきたいと考えます。

私の専門は自動車ですが、都市環境が専門の先生とご一緒したことで、人や群衆の動きの知見が得られたことも大きな価値だと思います。距離や対象物に対する人間の心理や、危険度の仮説も見出せたので、今後はそれらを車両の動きの研究に活かしていきたいです。

道路空間における“人溜まり”と流動交通の関係<末繁雄一 都市生活学部 准教授>

私は都市計画やエリアマネジメント、人間行動解析などを専門に研究をしています。これまでの街は駅からの距離や都心へのアクセスなど利便性や効率性で評価されてきました。ですが今後、人口が減少し続ける未来においては違うものさしが必要なのではないかとも思えます。例えば、吉祥寺はなぜあれだけ人気がある街かというと、新宿や渋谷へのアクセスが良いだけでなく、緑豊かな井の頭公園の存在も大きいわけです。

また、近年は国土交通省による「歩行者利便増進道路制度」の創設を受けて、道路が公園のように余暇活動に利用できる仕組みも出来つつあります。そこで“都市の豊かさ”という暗黙知を、データドリブンをベースに形式知に転換して街のものさしを作り、都市プランニングに発展させる活動を展開してきました。

末繁雄一准教授

QOL向上の研究で着目したのが、自然発生的に人が集まる「人溜まり」です。ここでは歩行者天国時の商店街の一角に人工芝を敷いて滞留空間をつくり、そこで人々がどのような活動をしていれば、滞留空間の横を通る自転車がスピードを落とすのかという実験を行いました。その結果、滞留空間内では単独の活動よりも、複数人での交流活動のほうが自転車はスピードを落とすことがわかったのです。楽しそうにゲームやおしゃべりをしていると、そこを通る自転車は「あの人たちは何をやっているんだろう」と気になり、スピードを落とすという結論が出ました。自転車が人溜まりに配慮し、スピードを落として通過するのは流動交通の効率性は悪いとも言えますが、公共空間の豊かさの向上になるとも捉えることができます。また、モビリティにとっての滞留者挙動の警戒基準の知見を得られたのも大きな成果です。

未来の道路空間のマネジメントを考えるにあたっては、私一人の知見では足りない部分も数多くありました。バックグラウンドが違う先生とご一緒したことで新たなテーマが生まれ、研究が前進したことは実に有意義ですね。今後は滞留空間にパーソナルモビリティが近づいた際の人の動きを分析するなど、研究をさらに深めていきたいと考えます。

杉町 敏之 (スギマチ トシユキ)

所属:理工学部 機械工学科
出身学校:関西大学総合情報学部総合情報学研究科 2008年 卒業
取得学位:博士(情報学)関西大学
研究分野:情報通信:機械力学、メカトロニクス、ロボティクス、知能機械システム
研究分野/キーワード:自動運転、ITS、ヒューマンファクタ

末繁 雄一(スエシゲ ユウイチ)

所属:都市生活学部 都市生活学科
職名:准教授
出身大学院:熊本大学 博士(自然科学研究科)2007年 修了、熊本大学 修士(自然科学研究科)2002年 修了
出身学校:熊本大学(工学部)2000年 卒業
取得学位:博士(工学)熊本大学 2007年
研究分野:都市計画・建築計画
研究分野/キーワード:都市計画、建築計画

ライター:未来都市編集部

東京都市大学 総合研究所 未来都市編集部です。未来の都市やまちづくりに興味・関心を持つ方に向けて、鋭意取材中!