2019年4月1日、未来都市研究機構の機構長に就任した葉村真樹氏。未来都市研究機構の「今後の研究展望」についてお話をお伺いしました。
「アーバン・デジタルトランスフォーメーション」がどのような要素で構成されているか
今後は、将来のエイジングシティ問題を解決する方法論として、「アーバン・デジタルトランスフォーメーション」を提唱していこうと考えています。その集大成として「都市5.0 〜アーバン・デジタルトランスフォーメーションが日本を再興する〜」を出版した(※出版に関する記事はこちらです)のですが、この「アーバン・デジタルトラインスフォーメーション」に合わせてユニットを組み替えるということも考えています。
現在ユニットは5つありますが、どちらかというと機能的な部分に偏っていました。そこで「アーバン・デジタルトラインスフォーメーション」がどのような要素で構成されているかという観点に基づいて、改めてユニットを組み直しました。最も大事なのは、データを取得するということです。その際に注目される技術としてIoTが挙げられます。スマートフォンで人の動きがわかるように、街の中にセンサーを設置することでリアルタイムに街の状況を把握でき、さらにデータも蓄積されてリッチなものになります。しかもそれは5Gというシステムで活用することも可能です。この技術を用いて、どのような研究を行えるかということを考えるのが1つ目のユニットです。
都市をどのようにデザインし直すか
2つ目のユニットは実際に取得したデータを合わせて、都市をどのようにデザインし直すかということを考察していきます。今まではある程度の人の動きを予想して都市を設計し、道や建物をつくるというプロセスでしたが、今後は実際にデータを取得することができます。よって都市の形や建物の中の構造、またそこに提供するソフトやサービスの再設計が可能になってくるのです。このデータに基づいたデザインの見直し、すなわち「データ・ドリブンデザイン」に着目して都市の再デザインをしていきます。
3つ目のユニットはデータに基づいて効率的にデザインするだけでなく、人間本来の暮らしにも準じた再設計を研究します。データ・ドリブンデザインの活用だけでなく、買い物難民や情報弱者へのソリューションを提供していくような「ヒューマン・センタード・デザイン」も視野に入れています。
4つ目のユニットはヴァーチャルリアリティ(VR)による社会的交流の創造に関する研究ユニットです。VRが都市とどういう関係があるのか?と思う人も多いかもしれません。これまでデジタルで作られたサイバー空間というのは、都市のようなフィジカル空間の利便性や効率性の向上のために、フィジカル空間の上に構築されるものでした。しかし、多くの人がサイバー空間で過ごす時間が多くなるにつれ、都市のようなフィジカル空間は、デジタルで作られたサイバー空間をベースとして構築されるのではないかということも言われ始めています。そういう観点で、この研究ユニットは先進的なユニットとなるでしょう。
5つ目のユニットは都市のマーケティングやマネージメントを具体的に実行していきます。都市は建物をつくるということだけでなく、サービスやソリューションを実際に運用する必要も生じてきます。さらに都市へ人を呼び込むための計画など、いわゆる都市経営が非常に大切なのです。そのためにプロジェクトの立案や資金調達などの研究も行っていきます。
こうしてアーバン・デジタルトランスフォメーションを構成していくのですが、マネージメントに加えて、自治体や企業だけでなく実際にそこに住んでいる人のコミュニティの形成計画についても、都市のマネージメントの領域と言えるでしょう。
6つ目のユニットでは、都市に自然をどう埋め込んでいくかという課題に取り組んでいきます。都市に住むのは人間であり、何かしらの生物が生息することになります。つまり都市とは生き物なのです。生き物の基盤には環境やグリーン、気候や土壌汚染や防災の問題など、さまざまなものがあります。これらは単純にデジタルだけで解決できるものではないため、自然をどう再生していくのか、いわゆるグリーンインフラが研究材料となってきます。
近年では「スマートシティ」や「スーパーシティ」という言葉を頻繁に聞くようになりましたが、何かとテクノロジーの話と結びつきがちで、実際に住む人間が無視されやすい傾向にあります。ですが住む人やコミュニティ、人間中心のデザインなどを単純にデータだけで表現すればいいという話ではないのです。そのためグリーンインフラとともに掛け合わせて再設計していく、そしてつくり変えていくということも重要な意味を持つと言えるでしょう。そのような形でユニットを再構成し、メンバーも新たに入れ替えて進めていこうと考えています。
自治体や国の機関、民間企業など学外との連携強化を進めていく
これは「都市5.0 〜アーバン・デジタルトランスフォーメーションが日本を再興する〜」を取りまとめる中で再整理していったという感じです。これまでの3年間は「インフラ」「環境」「情報」「生活」「健康」という領域でしたが、ユニット同士の横の連携がうまくできていませんでした。そこで「アーバン・デジタルトランスフォーメーション」という旗の下、一貫性を持たせるために再構成したということです。
さらに今後は従来通り社会実装に注力したいと考えています。また産官学連携ということで、自治体や国の機関、民間企業など学外との連携強化も進めております。すでにいくつかの自治体とともに未来都市のあり方への研究を行うなど、国際機関とスマートシティ実現に向けての社会的課題・経済的課題の議論を交わす計画もしております。
大学のブランド力向上については、単純に大学の認知度ということではなく、私たちの活動を通じて、「時代を切り開く」「地域社会や産業に貢献している」というようなイメージをさらに高めていきたいと考えています。そこで結果として認知度が上がり、他の大学との差別化を図れるのではと。スポーツや駅伝といった活動で知名度を上げる大学もありますが、一方で研究やさまざまな社会実装への取り組みでも知名度向上を図ることは可能であると思う次第です。
葉村 真樹(ハムラ マサキ)
所属:東京都市大学総合研究所
職名:教授
出身大学院:東京大学大学院工学系研究科
取得学位:博士(学術)
研究分野/キーワード:都市イノベーション、経営システムデザイン、メディア情報戦略