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緑を効果的に配置し、防災減災と環境改善を目指す

未来都市編集部6,714 views

都市の中に緑をどう配置していくのが、自然資源の公益的機能として効果的なのでしょうか。計画論も含めた研究領域として「四つの柱」をかかげ、緑地を調整・改修し、新たに作り上げることで環境再現をしていこうというのが、環境領域のグリーンインフラユニットです。環境緑地学について主に研究されている、総合研究所教授の飯島健太郎教授にお話を伺いました。

「持続可能性を考えると今まで通りではいけないんです」

産業革命や高度成長以降、人間は環境を破壊しながら成長してきました。しかし持続可能性を考えると、今まで通りではいけないだろうというのが、有識者のみならず皆さんの共有概念になってきています。これからは人口構成も大きく変化し、税収も減ってきます。人の流れや経済などを考えたときに適正な方法は何かと考えたときのひとつに、グリーンインフラがあると思っています。

キーワードは「環境改善」「防災」「町の魅力アップ」「健康」の四つの柱です。ご存知の通りコンクリートは蓄熱し再放射するため、都市のヒートアイランド現象を引き起こしています。しかし、そこに緑地が体系的に配置されていれば、緑地のクーリング作用によってヒートアイランド現象が緩和されるでしょう。熱中症患者を減らすこともできるかもしれません。

飯島健太郎教授

グリーンインフラの重要な機能に、防災・減災があります。そのひとつが流出雨水による洪水対策です。アメリカ・ポートランドなどで行われているのが、流出雨水対策として緑地を計画的に配置し、降った雨は下水に流すのではなく地面に浸透させようという運動です。道路と歩道の間に配置された植栽帯の土の表面が、道路部分から30センチほど下がっていて、縁石やヘリの部分の石が数か所抜いてあります。その中に道路にあふれた水を土の中へ浸透させるようになっているのです。

都市で洪水が増えると、老朽化した下水設備を改修するのにお金がかかってしまいます。ポートランドで行われた洪水対策では緑地を作ることによって流出雨水を削減し、雨が下水へ流れていかないようにしたことで都市型洪水を緩和させました。下水の改修費用を半分に減らすことができ、経済面でもいい結果を生んだのです。

「公園緑地が延焼をストップさせ、生垣は防災対策になります」

荒川や下北沢周辺の木造住宅密集地は、路地が狭く消防車が入っていけません。ああいう場所で火災が発生すると、焼け止まるところがないんです。阪神淡路大震災のときにも言われましたが、公園緑地は延焼をストップさせることができます。

延焼を止めるだけではありません。公園緑地や生垣は、火災現場の周辺にいる人たちの逃げ場や逃げる時間を作るという意味でも大きな機能を果たします。燃えている家から 5~6メートルの場所では放射熱や輻射熱で焼け死んでしまう可能性もありますが、燃えている場所が500度でも、そこに生垣があれば反対側は30度程であるという実験結果が出ています。こういった部分も評価して、庭などに積極的に木を植えていくのもグリーンインフラとして推進していくところです。

飯島健太郎教授

緑地が果たす役割には、人の健康も含まれます。例えば、子供の成長には外遊びが重要ですよね。近年“汗をかけない子供”が増えていますが、汗をかけるようになるには2歳半までの間に一定の暑さを経験しなければならないそうです。暑さを経験することで汗腺器官が発達していくので、そのために適度な外遊びが必要なんです。そこで利用されるのが、街にある公園ということなんですね。

街の中にたくさんある小さな公園は適当に配置されているわけではありません。法的に位置づけられている物で、公衆衛生学上で言う生活習慣病対策として、子供だけでなく高齢者の健康づくりにも役立っています。

「今年度から本格的な研究として都電荒川線の線路を緑化」

屋上や壁面に植物を植えるのも雨水対策になります。染色の副産物として出る染色汚泥を焼き発泡焼成させたものは通気性と保水性があり、植物を植えるのに適しているのですが、私たちはこれに植物を植えて屋上に置き、どれぐらい雨を吸い取るか、吸い取った雨の流出をどれくらい遅延させるのかという研究を行っています。こういうものを利用することで都市型洪水を減らせるんじゃないかと。板状なので、簡易的に置いたら即完成です。これはヒートアイランド対策、熱環境緩和にも活躍します。

飯島健太郎教授

緑地を作りたくても、都会ではあいている空間はほとんどありません。そこで目をつけたのが都電荒川線の線路です。線路を緑化しようということで、東京都交通局と一緒に今年度から本格的な研究事業として進めています。研究関係企業と私のもとで、研究室の学生は線路内の作業主任者と電車警戒員の講習を受け、線路内で作業をしているんですよ。植物を植えた板を並べ、その上を電車が走ります。植物は多肉植物で、4月には一面黄色い花が咲きます。導入後は温度が下がっただけではなく、十何種類の虫が帰ってきています。こういった空間が延長すれば、生物多様性の再生復元にも効果があるでしょう。自然を潰して生物や植物を絶滅させていくんじゃなく、もう1回復元をすることにも寄与していかなければならないと思います。それは緑地でしかできません。あまりお金を使わずに再生していくことがこれからは必要なんだということですね。

荒川線の緑化

飯島 健太郎(イイジマ ケンタロウ)

所属:総合研究所 環境学部
職名:教授
取得学位:博士(農学) 東京農業大学1997年
研究分野/キーワード:リスク、防災、健全度評価

ライター:未来都市編集部

東京都市大学 総合研究所 未来都市編集部です。未来の都市やまちづくりに興味・関心を持つ方に向けて、鋭意取材中!