都市機能の中で、自然環境が果たす役割とは何なのか。環境領域では、さまざまなアプローチで都市のグリーンインフラに光を当て、新たな都市づくりのヒントを提言しています。そこで今回は3回にわたり、環境領域が追究するグリーンインフラの重要性に迫っていきます。お話しいただくのは、飯島健太郎 環境学部教授です。
社会課題、地域の困りごとへの解決策として
グリーンインフラという言葉だけを聞くと、自然環境を生かした都市計画における緑化土木事業とイメージされがちです。正しくは、自然の有する機能を活用して、社会課題や地域の困りごとを解決する方策を意味しており、能動的に人と自然の調和共存環境を模索するものなのです。
このグリーンインフラを扱う学問の名称としては、造園学(ランドスケープ・アーキテクチャー)を背景としてきたとなります。造園学では、古くは日本庭園のように、日本人の暮らしや精神的なバックボーンにも根差した原理を探ったりもします。そのような意味で、社会学や自然科学とも密接に関連しています。
近代に入ると、アメリカの造園家・都市計画家のフレデリック・ロー・オルムステッドが近代造園学を打ち立てました。これにより、建築、土木、都市計画を巻き込んで、社会の問題を解決するスケールの大きな学問へと発展しました。
先人の成果の一例が、明治神宮の「鎮守の森」です。日本の太古の森の復元を目指し、日本の造園学の祖とされる上原敬二、林学博士の本多静六などが手掛けました。彼らは、100年先の森の姿を見越し、将来にわたってどのように森をつくっていけばいいか、初期の植栽から成長過程森の植生、生態系の発達を計算して設計したのです。実際は、地球温暖化の影響で森の発達が約50年後の図面より10年早まったと考えられていますりましたが、結果としてまとまりを持った森となりました。今ではヒートアイランド化した都市のクールスポットとなり、動植物の保全の観点でも重要な役割を果たしています。
個別の解ではなく、複合的な機能を有する
東京都市大学が取り組んでいるのは、エイジングシティの問題です。ハード、ソフトともに老朽化してきた都市が、いかににぎわいのあるコミュニティや、人々の健康を包み込む持続性のある都市として存続できるのかを追究しています。環境領域において、課題解決には緑化技術や都市計画といった「技術の解」と、社会システムや政策といった「仕組みの解」の2つが伴わないと実現しません。それらを次のような多彩なテーマで体系的に研究しています。
「ファイトレメディエーション」は、植物による汚染土壌の浄化などを目指した研究です。工場移転に伴って工場跡地で重金属類や揮発性有機化合物などによる土壌汚染が深刻な問題になっています。現在、汚染物質のPb(鉛)を集積する植物の探索と、汚染された現場から採取した土壌での植栽実験、また汚染された土壌に育成するヨモギのPb吸収について調査が進められています。
環境改善に関連する研究として、ハイブリッド芝による多様な人工面の再緑地化も検証しています。ハイブリッド芝とは、天然芝と人工芝を混合した芝のこと。こちらはカーペットのように芝生を敷設することが可能で、建物の屋上や駐車場のアスファルト上に、一気に芝生の緑地をつくることができます。
河川の流域の防災についての研究も進めており、広域の環境分析を得意とするメンバーが取り組んでいます。地域に降った雨が緑地などの土壌に浸透すれば、河川の水量を抑えられ、下流域都市洪水の増水を軽減するなど、防災・減災に役立てることができます。緑地がどれほどの効果を発揮するのか、帷子川などの横浜の河川で検証がを続けられています。
東京23区唯一の渓谷「等々力渓谷」の保全プロジェクトも推進しています。等々力渓谷は、都市部でありながら、人為的ではない地形にもとづいた貴重な自然環境です。私たちは、その水質や生物をが継続的に調査されしています。例えば、湧き水が減る、水質が富栄養化している、サワガニが見られなくなるなど、何かしら異変が見られれば、都市が生態系の上で健全性を失っていることを意味します。ここで得られるデータは、今後の都市開発の指標にも役立てられるもの。警告渓谷環境に近いエリアの再開発などで、環境改善のためにどれぐらい緑地が必要かなど、計画を考える上で重要になるでしょう。
グリーンインフラが、温熱環境と人に与える効果についても研究されています。ポイントは、緑地づくりを政策や企業活動ではなく、生活者の目線からアプローチしている点です。例えば、集合住宅のベランダのグリーンカーテンなどが対象に取り上げられています。それによって夏場の空調の利用がどのように変わるかなど、生活行動の変化を追跡。心身の健康に与える影響なども調査しています。
このように研究テーマが多岐にわたるのは、グリーンインフラが課題に対する個別の解だけではなく、複合的な機能を持っているからです。都市機能は、人工的な建造物によるグレーインフラが支えている部分も大きいのですが、それだけでは対処しきれない課題もあります。グリーンインフラには、その部分を補完する働きがを期待できます。自然を資源としたグリーンインフラが、都市にどのような役割を果たしてくれるのか、私たちは追究を続けています。
飯島 健太郎(イイジマ ケンタロウ)
所属:総合研究所 環境学部
職名:教授
出身大学院:東京農業大学 修士 (農学研究科) 1994年 修了、東京農業大学 博士 (農学研究科) 1997年 修了
出身学校:東京農業大学 (農学部) 1992年 卒業
取得学位:博士(農学) 東京農業大学1997年
研究分野:環境緑地学、造園学、公衆衛生学