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SDGsが目指す社会へ、VR技術でコミュニケーションの可能性を広げていく(後編)

未来都市編集部2,488 views

東京都市大学では「未来都市研究の都市大」をコンセプトに掲げ、各領域で都市研究を重ねてきました。本記事では未来都市研究機構のユニットの1つ「VR×社会的交流の場の創生研究ユニット」の取り組みや今後の展望についてご紹介します。今回はメディア情報学部の市野順子教授にお話を伺いました。

「SDGsが目指す社会へ、VR技術でコミュニケーションの可能性を広げていく(前編)」はこちらからご覧ください。

自己開示レベルを比較する実験を実施

VR技術の活用法を見出すための4つ目の実験として、「非言語行動」をテーマとしたものも行いました。私たちは普段、身振り手振りをつけて会話をしますが、それらの非言語行動を隠した状態において、自己開示がどのように変わるのかということを検証するためです。これには人間に反応して動くアバター、ほとんど動かないマネキンのようなアバターという2つの条件に基づいて実験しました。
自己開示を研究する社会心理学者の多くは、“非言語行動が隠れれば隠れるほど、自己開示が進む”という見方をしています。これはつまり、ジェスチャーを隠すことで人間は大胆になれるという考えです。そこで、非言語行動を全て隠した場合どう変化するのかという仮説を立て、全く動かないアバターを設定したのです。徐々に分析が進みつつありますが、私の仮説に反して、身振り手振りをつけたアバターとの対話の方が、自己開示が進む傾向であることが統計的に優位に出ました。被験者の回答の中には、アバターが動いたり、自分の発言に対して「うんうん」などと反応したりすることで、会話が進むというものもありました。

今年度行ったいくつかの実験から、見た目や視点、非言語行動というアバターの状態が変わることによって、人間の振る舞いも簡単に変化することが見えてきたと言えます。

運動パフォーマンスの向上や、作業の効率性アップ、心理的な快適性の追求を目的としたアバターを用いた研究はこれまでにも行われてきましたが、あくまでも1人の被験者を対象とするものです。コミュニケーション支援のために、人と人が向き合って相手のアバターを意識し、VR空間をどう活用すべきかという実験は今まで行われておらず、この背景も私が取り組み始めた理由の1つであり、研究のウリにしているところです。
とはいえ、実験で自己開示のデータを取得しても、あくまでも対象は人間であるがゆえ、当事者の頭の中は見えないので分析は難しいところです。「それってたまたまじゃないの?」などさまざまな要因が考えられるので、研究に落としこむのはそうそう簡単ではありませんね。

アバターの条件や活用法をまとめたガイドライン作成を目指す

これまで行ってきた自己開示を調査する実験では、2名での対話や4人での会議など小さな空間を設定してきましたが、今後はカウンセリングや最近企業で流行中の1on1ミーティングという場にも適用したいと考えています。コミュニケーションと言っても局面によって同じではありませんので、社会ニーズがありそうな場をコミュニケーションの場として設定し、それぞれのシーンでどれだけ反応が変化するのかということを調べる必要もあるでしょう。

研究をある程度網羅できたら、アバターの外観や視点、非言語行動という諸条件から考察できる、有益な局面や活用法を包括的にまとめたガイドラインを3〜4年以内に作成することも視野に入れています。

「VR×社会的交流の場の創生研究ユニット」にはシステムインテグレーター企業、TISからのメンバーが参加しており、VR技術研究ではTISが開発したアプリを使わせていただいています。そのアプリはTISがオープンソースで公開しているので、企業側の意向にもよりますが、ビジネスとして応用できる可能性もあるかもしれません。またユニットのスタッフ一緒にTISと何らかのプロジェクトを行えるチャンスもあればいいですね。

ユニットには情報系だけでなく、社会心理学、認知科学を専門とする先生がいるため、それぞれのプロの知見を踏まえ、私とは異なる視点から見たVR空間の新たな分析にも取り組んでいきたいです。あるいはその先生が主体となる実験も行えたらより理想的であると思います。

さらに生体情報工学という、心拍や呼吸などの人間の生体情報を工学的に活かす研究を専門とする先生も参加しています。生体情報は“無知覚”で起きているため一番正直な反応でもありますが、今年度行ったVR空間実験では併せて生体情報についても取得しましたので、今後はそれらをデータ化して分野を拡充させたいですね。人間の頭の中だけでなく、体自身がどのような反応を起こしているかを調査することも新たな課題を見出すための大きなカギとなってくるのではないかと。また、各先生が行動や体で起こっているデータを集計しているので、それらを組み合わせてどのような事象が起きているかを包括的にまとめ、研究をさらに深めていきたいですね。

市野 順子(イチノ ジュンコ)

所属:メディア情報学部 情報システム学科
職名:教授
出身大学院:電気通信大学 修士 (情報システム学研究科) 1998年 修了、神戸大学 博士 (自然科学研究科) 2007年 修了
取得学位:博士(工学) 神戸大学 2007年
研究分野:ヒューマンコンピュータインタラクション

ライター:未来都市編集部

東京都市大学 総合研究所 未来都市編集部です。未来の都市やまちづくりに興味・関心を持つ方に向けて、鋭意取材中!