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IoT技術を活用し、スマートインフラを実現する

未来都市編集部4,374 views

橋等のインフラ老朽化が問題となっている昨今、橋の疲労環境を正確に測定し、適切にメンテナンスを行うことが求められています。また、震災などの災害時には、橋の安全性を瞬時に評価するしくみも重要です。加速度センサーで橋の疲労を計測するシステムや震災後の橋の健全性を評価するシステムを開発し、その実用化に向けて研究を続けている都市工学科の関屋英彦准教授(取材当時:総合研究所講師)にお話を伺いました。

「車両重量から、橋の疲労環境を正確に計測するシステムを開発」

主に、センサーを使って橋等のインフラ構造物の健全度を評価し、メンテナンスに役立てる研究開発をしています。この背景には、国内の高速道路などのインフラ設備の多くが約半世紀前の高度経済成長期に作られたもので、き裂などの疲労損傷の数が増大しているという実態があります。必要なメンテナンスを行わないまま、き裂が生じた橋に負荷がかかり続ければ、ある一定を超えたときに落橋等の最悪な事態を招くことも考えられます。交通インフラを支える橋に重大な損傷が発生しないよう、適切に維持管理していかなければなりません。こうした課題を解決するために、インフラ管理者やセンサメーカー等とそれぞれタッグを組んで研究開発を進めています。

橋の寿命を予測するには、対象となる橋の疲労環境を正確に把握する必要があります。そこで、高速道路などのインフラ構造物に加速度を測定できる計測器「MEMSセンサ」を取り付け、車両の走行による橋梁の加速度データから変位を算出し、その変位から車両の重量を割り出すというシステムを考案しました。簡単に説明すると、橋を秤のように利用し、車両が橋を通るときのたわみ量(変位量)から車両重量を推定するというしくみを開発したのです。

IoTを活用した走行車両の情報推定システムと異常検知システム

車両重量が橋に与えるダメージは、想像するよりも大きいものです。例えば、2tの乗用車と10tトラックが橋の上を通ったとします。トラックの重量は乗用車の5倍ですが、橋に与えるダメージは車両重量の3乗で125倍になります。橋の疲労環境を評価するには、車両重量とその台数を正確に把握することが重要なのです。

「MEMSセンサによる計測技術をトンネルにも応用」

MEMSセンサを使った研究目的は、設置が簡単な最新の計測器でインフラの健全度を評価し、メンテナンスに活用できるシステムを開発することです。従来の「ひずみゲージ」には、設置に時間がかかる、長期耐久性が悪い、一度しか使えずコストが高いなどの課題がありました。一方でMEMSセンサは、マグネットで橋に直接貼り付けるだけで設置でき、微調整も可能、取り外しも簡単なため現場に適しています。また比較的安価で、繰り返し使うことができ、小さなバッテリーだけで動くのも大きなメリットです。

MEMSセンサ

研究開発を進めるにあたり、まず市販されている10数種類のMEMSセンサを集め、性能を評価し、橋の計測に最適なものを選定しました。次に、MEMSセンサで計測した加速度データから、変位データを算出する計算方法を開発。計測データに含まれる誤差が変位データの精度を低下させるという課題がありましたが、車両検知センサを橋梁の両端に設置し、車両が橋梁に出入りするタイミングを計算に取り入れることで解決しました。このような段階を経てシステム開発が進み、車両重量による橋のダメージを数値化できるようになったのです。

こうした技術は現在、トンネルにも活かし始めています。「トンネル構造物は地震に強い」といわれてきましたが、実際には地震などでダメージを受けて損傷・崩壊しています。橋と同様にトンネルでも適切な点検やメンテナンスが必要です。トンネルは非常に狭い空間で大きな重機が入りにくいうえ、長いトンネルではアクセスに時間がかかって救助が難しいといった側面もあります。利用者の安全を守るためにも、センサを使ってトンネルの安全性を定量的に評価しなければならないと考えています。

関屋英彦准教授

「未来へ向けて、スマートインフラの実現を目指す」

現在、IoT技術を活用した「インフラモニタリングシステム」を開発進行中です。IoT技術を使えば、事務所や研究室にいながらデータを一括して監視することができます。都内の橋梁で行った実証実験では、計測データを遠隔地に飛ばすことに成功、モニタリングに活用できることがわかりました。またセンサの稼働に欠かせない電源には、ソーラーパネル・振動発電といった再生可能エネルギーの利用を試みており、計測器に必要な電力を独自に確保できるよう研究開発を進めています。さらに、災害時に緊急車両が通行できるか否かを即座に判断できるシステムも急ぎ開発中です。

MEMSセンサによるインフラモニタリングシステムは、人間に例えることができます。人間は身体に悪いところがあれば痛みを感じ、必要であれば病院で医師の診察を受けます。それと同じように、ダメージを検知できる感覚(MEMSセンサ)がインフラに備われば、不具合が生じたときにエンジニアにデータを飛ばすことで、すぐさま診断を受けられるようになります。研究室などで判断できなければ、データを基にした現地調査も可能です。

関屋英彦准教授

インフラの老朽化は刻一刻と進行しています。この解決すべき課題に対し、我々の研究室では、「通常時における橋梁のダメージを計測する」、「震災時における橋梁の健全性を評価する」、この2つを研究の主なターゲットとしてセンサ技術、IoT技術、再生可能エネルギー技術等を活用しながら、未来の「スマートインフラ」の実現に向けて研究を進めていきます。

関屋 英彦(セキヤ ヒデヒコ)

所属:都市工学科
職名:准教授
出身大学院:東京工業大学 修士 (理工学研究科) 2011年 修了
出身学校:東京工業大学 (工学部) 2009年 卒業
取得学位:博士(工学) 東京都市大学 2016年
研究分野/キーワード:構造工学、地震工学、維持管理工学、橋梁工学

ライター:未来都市編集部

東京都市大学 総合研究所 未来都市編集部です。未来の都市やまちづくりに興味・関心を持つ方に向けて、鋭意取材中!