MENU
MENU

交通における、ユニバーサルデザインとエコデザインの融合

未来都市編集部3,701 views

2018年11月17日、東京都市大学渋谷サテライトクラス(東京・渋谷区)にて、『渋谷福祉学会 第1回大会(第140回総研セミナー)』が開催された。

『渋谷福祉学会』は、子育ての現場および福祉に関わる諸問題を科学的に調査し、総合・包括的に研究することを目的とした東京都市大学総合研究所「子ども家庭福祉研究センター」と渋谷区が共同で開設し、運営を行っている。

『渋谷福祉学会 第1回大会』では、“渋谷の福祉の未来を創造する”をテーマに、渋谷区の老若男女や国籍、身体の状態にかかわらず、人が先端ロボット技術を用いた幅広い生活サービスを享受できる社会(=ユニバーサル未来社会)の実現を見据えた講演、シンポジウム(テーマ:渋谷のユニバーサル未来社会を考える)、渋谷区の福祉事業所による研究発表が行われた。

渋谷福祉学会 第1回大会

当記事では当大会の前半に行われた2つの基調講演の中から、東京都市大学 都市生活学部の西山敏樹准教授の講演「近未来のモビリティと都市生活」をレポートする。

集積台車の応用で実現した、フルフラット電動バス

あらゆる人が移動しやすい環境の向上策を、ユニバーサルデザインとエコデザインの融合という新しい領域の構築を目指しながら研究してきた西山准教授。最近の公共交通に関する期待として、高齢者や障害のある人でも利用しやすいユニバーサルデザインと、CO2の削減など環境に配慮したエコデザインの2つが挙げられるという。そこで取り組んでいるのが、フルフラットでエコな電動バスの開発研究。電車のように電池、モーター、インバータなどを床下に設置、車内がフラットな電動バスを試作した。集積台車を応用することで、車内空間が広くなるだけではなく、モーターの伝達ロスがなくなり、一充電あたりの距離を伸ばすこともできる。

渋谷福祉学会 第1回大会

バスのユニバーサルデザインといえば、「ノンステップバス」と表示してあるのに車内の後ろに段差のあるタイプが思い浮かぶ。これは車内の後ろにエンジンを置く従来のバスの仕組みに原因がある。実は、バスで起きている事故の半分ほどはノンステップバス内部の階段が原因の転倒事故。バス会社にとっては深刻な問題だが、フルフラットバスとなればこのような事故の件数は大幅に減ることが期待できる。

さらに運転の面では、クラッチ操作が不要な構造にすることで、高齢化する運転手の問題にも対応している。利用者・経営者・実務者の三方よしのバスといえるだろう。

自動運転機能を伴ったパーソナルモビリティの開発と展開

続いて紹介されたのは、自動運転機能を伴ったパーソナルモビリティの開発研究。都市部から地方部に進むほど高齢者が増えるのに、鉄道やバスといった公共交通機関が乏しく、自家用車がなければ通勤、通学、買い物、社会生活とあらゆる面に支障が出てくるのが現状だ。パーソナルモビリティの活用により、子どもからお年寄り、すべての人が自由かつ安全に移動でき、人々の交流や物流を改善することを目標としている。

開発されたのは1人乗り用と業務用車両の2種の電動パーソナルモビリティで、自動運転技術と遠隔地運行操作によって搭乗する人や搭載する物品の取り扱いの支援を行う。業務用車両は無人販売車などへの活用が想定され、乗用よりも注目されているという。

自動運転機能を伴った電動パーソナルモビリティ

またこの自動運転機能を伴った電動パーソナルモビリティは、病院内での活用も期待できる。例えば大きな病院の場合、診療科を掛け持ちするなどの理由から院内を長く歩かなければならず、体調が悪い人や高齢者にとっては大きな負担となっている。排ガスや騒音もないクリーンな電動車であれば院内を走るのに問題はなく、診療室前までの移動支援に適している。実際に都内の病院で300人以上の患者に利用してもらい、高い評価を得た(2014年度グッドデザイン賞受賞)。一方、業務用車両は、病院内の用具・用品の輸送への展開が見込まれる。

すべりにくい新床材で転倒事故を防止

フルフラットバスの開発事例でバスにおける転倒事故について触れたが、それと関連して各所で転倒事故をなくすための新床材の開発研究についての紹介があった。高齢者と下肢障がい者の急速の増加により、転倒事故が多発。鉄道会社は対応に苦慮していた。

新しく開発されたすべりにくい床材は、石英石を利用したものだ。硬度が高い天然石英石を粉砕し、特殊な樹脂を用いてつなぎあわせた。石なので摩耗せず、すべりにくさが長期間持つ。従来製品より生産時のエネルギーが少なくすむのも特徴だ。この新床材は多くのバス会社のほか、新幹線のぞみ号の出入り口部分にも施行されている。

まとめ

西山敏樹准教授

鉄道やバスが好きで、中学生の頃から公共交通を使い、一人旅をしていた経験が、現在の研究につながっているという西山准教授。21世紀になって使えるようになった様々な技術により、ユニバーサルデザインとエコデザインの融合を実現し、都市の福祉度を高めていきたいと講演を結んだ。

西山 敏樹(ニシヤマ トシキ)

所属:都市生活学部 都市生活学科
職名:准教授
出身大学院:慶應義塾大学 修士 (政策・メディア研究科) 2000年 修了
慶應義塾大学 博士 (政策・メディア研究科) 2003年 修了
出身学校:慶應義塾大学 (総合政策学部) 1998年 卒業
取得学位:博士(政策・メディア) 慶應義塾大学 2003 年
研究分野:社会システム工学・安全システム
研究分野/キーワード:ユニバーサルデザイン、福祉のまちづくり、都市交通、モビリティ論、社会調査法

ライター:未来都市編集部

東京都市大学 総合研究所 未来都市編集部です。未来の都市やまちづくりに興味・関心を持つ方に向けて、鋭意取材中!