未来都市機構の設立から3年強にわたる、インフラ領域の取り組みの成果をご紹介します(全3回)。トップバッターとして語っていただくのは、関屋英彦 建築都市デザイン学部 准教授。交通インフラの維持管理について研究を進めています。人力に頼っていたインフラのメンテナンスをリアルタイム・自動化し、維持管理の高度化を目指しています。
(取材は、2020年2月26日に実施しました。)
橋梁のダメージを測る、圧電素子センサの有用性を実証
この3年間は、センサ技術とIoT技術を駆使し橋やトンネルといった交通インフラの状態をモニタリングする技術開発を進めてきました。2017年まで取り組んだのは、橋梁における疲労き裂のモニタリングです。高速道路等の橋梁は、人力による目視点検が主な手法として維持管理が行われています。これらを常時かつ無人化することができれば、インフラのリアルタイムな安全性を担保できます。また、センサ・IoT技術を活用することによって、大規模な震災が発生した際、橋梁の健全性を瞬時に判定するシステムを構築することも可能だと考えています。
センサ技術の一つとして活用しているのは「圧電素子」です。従来から利用されている「ひずみゲージ」は消費電力が大きいため、長期的な計測において課題がありました。圧電素子は、変形すると電圧を発生する特性があり、駆動そのものに電源は必要ありません。さらにコストが低い。そのため、交通インフラに多数設置することも可能と考えます。
圧電素子センサの検証実験では、約5mの大型疲労試験を実施し、溶接部の疲労き裂の状態と、圧電素子センサによる計測データとの関係を分析しました。ここで得られた成果によって、圧電素子センサによる疲労き裂検知性能を検証することができました。
鋼構造物に生じる疲労き裂は、最初は目に見えないほどの小さな亀裂です。しかし、徐々に進展し、ある一定の長さになると急激な破壊を引き起こす恐れがあります。センサ技術を活用することによって、どの程度の損傷が生じているのかを監視することができます。この技術によって、ヒューマンエラーによる損傷の見落としを無くすことができるのではないかと期待しています。
復旧が難しいトンネルに、網羅的なモニタリングを
トンネルモニタリングの研究にも取り組んでいます。トンネルの場合、壁の崩落が大きな事故につながる恐れがあります。また、災害や事故が起こった際、シールドトンネル等はスペースの条件により現場まで重機が入れないといったケースが考えられ、復旧に時間がかかることが予想されます。
現状では、熟練点検員による目視点検や現地調査によって維持管理が行われています。列車が走るトンネルなどを、終電から始発までの間に、人力で検査を行っています。しかし、今後、熟練点検員数の減少や、老朽化インフラの増加等の課題が増えてくることが予想されます。そこで、私たちが研究するセンサ技術による常時監視は、課題解決のための大きな役割を担うと考えています。
トンネル外壁と地盤との間にできる背面空洞はトンネル構造に影響すると考えられます。トンネルは、その内部に列車が走行した際、変形します。このとき、トンネルの外側に背面空洞がある場合、局所的な高いひずみが生じることが考えられ、この高いひずみが繰り返し作用することによって、損傷が生じることが懸念されます。そこで、トンネルの背面空洞が列車走行時にどの程度影響を及ぼすのかについて数値解析を用いて検証しました。
シールドトンネルの解析結果
数値解析ソフトウェアを使い、背面空洞のあるトンネルモデルと、背面空洞の無いトンネルモデルを作成し、そのモデルに列車を模擬した荷重を与えました。その結果、背面空洞のあるモデルでは、背面空洞の無いモデルに比べ、高いひずみが生じていることを確認することができました。
今後は、センサ技術による得られたデータを携帯通信網等によるIoT技術により集約し、遠隔で常時監視できるシステムの構築を目指します。また、電源に関しても、ソーラー発電等の再生可能エネルギーの活用を検討しています。常時かつ高精度に交通インフラを監視できるモニタリングシステムを実現すべく、研究を進めていきます。
関屋 英彦(セキヤ ヒデヒコ)
所属:建築都市デザイン学部 都市工学科
職名:准教授
出身大学院:東京工業大学 修士(理工学研究科)2011年 修了
出身学校:東京工業大学 (工学部) 2009年 卒業
取得学位:博士(工学)東京都市大学 2016年
研究分野:構造工学、維持管理工学、橋梁工学