街づくりの中における“健康”の位置づけとはどんなものでしょうか。未来都市研究機構で健康をテーマに研究されているヘルスケアユニットのメンバーで、ユニットのリーダーを務める知識工学部 情報通信工学科の柴田随道教授と、実際に自由が丘で街づくりについて実地調査・研究をされている末繁雄一講師のお二人にお話を伺いました。
「それぞれの立場から活動していこうというのがうちのチームです」
末繁講師:「都市」と一口に言っても様々な領域がありますが、その中で私たちは健康をキーワードに学部横断的な研究をしています。
柴田教授:私は知識工学部 情報通信工学科で、“物”のシステムづくり、センサネットワークやデータの処理を担当しています。機構のユニットのメンバーは、末繁先生と久保教授、早坂教授の4人。我々の切り口は「街の中での生活と健康」についての課題を4人それぞれの立場から活動していこうというもので、ニーズ調査などを実施しています。
「みんながストレスなく外出できる街づくりを支援していきたい」
末繁講師:私自身の研究テーマは、都市計画です。都市計画を実行することにより、街に賑わいや活気をもたらし、コミュニティを育むというのが研究のねらいです。
インターネットが普及すると、街に出なくとも必要なものが手に入って便利ですよね。しかし、そのために皆が外出しないようになれば、街は寂しくなり、豊かな都市ではなくなってしまいます。私は、買い物のためにある消費型の街ではなく、散歩に行くような、いわゆる時間消費型の都市景観をつくることが大事だと考えています。ネットで経済的な物理消費が可能なら、これからの街にはそうした付加価値を与えることが必要でしょう。私は技術者でありませんが、柴田先生のようなセンサー技術に詳しい方に協力していただくことで、街の中の不自由や不具合を技術で解決できるはずだと考えているのです。
私たちのターゲットは高齢者と子育て世代です。高齢者は身体的な不安を、子育て世代は体力のない赤ちゃんを抱えています。我々の研究ユニットの目的は、そうした方々が何のストレスもなく出掛けられる街を、技術を組み合わせて支援していくことです。これまでのアンケート調査では、対象者がどのようなことに困っていて、どのような要望があるのかなどを明らかにしてきました。その中で多くあがってきたのは、トイレや休憩場所の混雑具合などが知りたいという声。そうしたデータを収集し、ユーザーにフィードバックする取り組みを進めています。
柴田教授:トイレやレストラン、ベンチの空き情報を感知するセンサーを作るための技術はすでに完成しています。あとは、ネットワークを構築し、フィードバックを行うための技術が必要です。
小型センサーによるIoTを活用して周囲をモニターすることになりそうですが、いくつかの課題があります。「保守運用性をどのように向上させるのか」、「データを収集するネットワーク技術」、「収集したデータを分析し解析する技術」の3つです。私の専門からすれば、空きスペースを感知して情報をフィードバックすることへの大きな技術的ハードルはありません。
世田谷キャンバスではすでにドアの開閉センサーと人感センサーの実証実験を行っており、これがどのようなシチュエーションで使えるのかを検証している段階です。学内のトイレにも開閉センサーをつけ、占有状況や利用状況をモニターし、どんな時間帯に学生の出入りが多いのかを研究室で調べています。
この技術は、ドアが開くと電波で情報が飛び、監視状態を維持するというものです。現在はそこからデータを受け取り、処理を行い、ネット経由でサーバへ持っていくためのプロトタイプを運営しています。また、照明の光で発電し、日中は明かりのある場所なら二次電池へ蓄えることができるので、夜でも運用ができるのも特徴です。将来的に末繁先生のフィールドでデータを収集し、ユーザーにフィードバックしていく運用が考えられます。
末繁講師:まだ正式に決定ではありませんが、その第一歩として、私が普段から街づくりに関わっている自由が丘のいくつかの施設に設置させていただく予定です。次の段階として、そのデータをユーザーに情報提供するプラットフォーム製作を行っていくための下準備も進めています。
「スポット的でもいいので、来年には街の中へ計画を持っていきたい」
末繁講師:自由が丘は女性に人気のある町ですが、授乳室やおむつを替えるスペースがほとんどなく、あっても混んでいるというのが現状です。一方、近隣の二子玉川には整備されたショッピングセンターがあります。売っているものが同じなら、お客さんは過ごしやすい街に行きたいですよね。
広い目で見ると、現在の人口は減少の一途をたどっており、都市間競争が起こっています。今は人気の街でも、この先はわかりません。自由が丘の皆様もそのことに危機感を覚えています。私たちの調査で問題点を明らかにし、新しいサービスを提供していきたいです。未来都市機構の活動は5年計画で進めていますから、5年後ぐらいには導入したいですね。
しかし、システムを作ることがこのユニットのゴールというわけではありません。システムはあくまで手段であり、導入してからがスタートなのです。柴田先生の研究などを駆使すればこの他にも様々なかたちで街と関わることができると考えています。
柴田教授:スポット的かもしれませんが、来年には街の中へと計画を持っていければと思います。技術面における現状の大きな課題は「ネットワークが機能するのか」ということですが、ユーザーからの反応などを見たうえで来年以降はさらなるブラッシュアップを進めていきたいです。計画実用化の可能性を学術的に明らかにすることが、今回のテーマにおけるプロジェクトのゴールだと認識しています。
末繁 雄一(スエシゲ ユウイチ)
所属:都市生活学部 都市生活学科
職名:講師
出身大学院:熊本大学 博士 (自然科学研究科) 2007年 修了、熊本大学 修士 (自然科学研究科) 2002年 修了
出身学校:熊本大学 (工学部) 2000年 卒業
取得学位:博士(工学) 熊本大学 2007年
研究分野:都市計画・建築計画
研究分野/キーワード:都市計画、建築計画
柴田 随道(シバタ ツグミチ)
所属:知識工学部 情報通信工学科
職名:教授
出身大学院:東京大学 修士 (工学系研究科) 1985年 修了
出身学校:東京大学 (工学部) 1983 年卒業
取得学位:博士(工学) 東京大学
研究分野:電子デバイス・電子機器
研究分野/キーワード:集積化システム工学、集積回路、信号処理、センサネットワーク