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キーポイントは「固定」から「可変」。未来にふさわしい在宅ワーク環境とは?(前編)

未来都市編集部2,119 views

東京都市大学では「未来都市研究の都市大」をコンセプトに掲げ、各領域で都市研究を重ねてきました。本記事では未来都市研究機構のユニットの1つ「ヒューマン・センタード・デザイン研究ユニット」のこれまでの活動について紹介します。今回は、ユニット長の西山敏樹准教授にお話を伺いました。

西山敏樹准教授

人間の行動特性や心理を形にする、「ヒューマン・センタード・デザイン」

「ヒューマン・センタード・デザイン研究ユニット」では、新型コロナウイルスのようなパンデミックや働き方改革を視野に入れ、未来における最適な在宅ワーク環境を研究目標としています。気候や環境、ウィルスの対策、災害リスク、心理的要因などを総合的に勘案して、SDGsにも繋がる在宅ワーク環境提案など、さまざまな活動を進めてきました。

近年ではビッグデータが従来に比べると格段と取得しやすくなり、都市生活者の行動はデータで細かく特徴づけることが可能です。それらを分析して得られた人間の行動特性や心理を形にするのが「ヒューマン・センタード・デザイン」であり、我々の研究主旨になります。

在宅ワークに必要な課題を洗い出すべく、3つの取り組みを実施

西山敏樹准教授

昨今のコロナ禍により在宅ワークが普及したのは周知の事実ですが、一方で動線問題や、子供からの干渉など家の中におけるトラブルも生じてきました。欧米ではインターネットが登場した1995年あたりから、家でも仕事ができる環境を意識した住まい作りが進んでおり、今回のコロナ禍でもスムーズに在宅ワークに移行できたと言われます。ですが職場に行くことが美徳とされる日本においては、インターネットの登場に関係なく、何も考えずに家が作り続けられてきました。その結果、緊急事態宣言の発令で突然在宅ワークをすることになり、都市生活者が混乱に陥ってしまったのです。それゆえ、コロナ禍の今こそ、人間の行動特性や心理を踏まえた生活環境をデザインが求められていると感じます。そこで在宅ワークに何が必要で何が問題なのか、全て洗い出す必要があると考え、以下の3つの取り組みを行いました。

1つ目は町田や新百合ヶ丘などのニュータウンに住む、約800人へのネットアンケート調査です。その結果、多くの家庭で「書斎」がなくて困っているということが浮き彫りになりました。というのも、回答者の多くが「台所」で仕事をしていたことが判明したのです。他には、階段の下のスペースにデスクを置いたり、押し入れに籠もって仕事するという人もいたり。いずれの場合も仕事に集中できる環境ではないので、雑音が遮断できるカプセルオフィスなど、家の中に簡単に置けるツールが必要だと思うのです。調査では20〜30代の人はそのような新しいツールに興味を持っていることもわかりました。また、若い世代はワーケーションという働き方に興味を持っていることも貴重な発見です。私たちのユニットで「トレーラーハウス」という、住宅に着脱でき、移設可能なトレーラーハウス型住居の開発をしていますが、コロナ禍の今こそリモートワークやワーケーションに最適と言えるでしょう。キャンピングカーのような使い方もできますし。コロナ禍で働き方の変化が見られる今こそ、このような“一部可変式”の家が、今後注目されるのではないかと考えます。

「オフィスカー」のイメージ

ワーケーションや柔軟な書斎の確保に有用な動くオフィス「オフィスカー」のイメージ

2つ目の取り組みが「エコハウス」の調査です。環境省が10年前くらいにスタートしたもので、いくつかの自治体で実験的に作られている地産地消をコンセプトとした家です。エネルギーや光の取り入れ方も理想的で持続可能性が高く、SDGsにも繋がります。城崎温泉や飛騨高山にあるエコハウスはワーケーションとして利用する人も多く、自然と共生しながら仕事することでパフォーマンスも向上するのだそうです。ホテルより安く借りられますし、台所もあって実にエコ。コロナ禍で改めてそのエコハウスが見直されたというわけで、観光地でワーケーションする人は今後もどんどん増えると予測できます。今後はエコハウスを利用する人にアンケートをとって、行動特性や気持ちの変化などの結果を分析して、未来の住まい作りのヒントにしたいですね。

3つ目の活動は、お子さんを持つご両親へのグループインタビューです。子育て支援に関するイベントを開催した時に行ったもので、未来の家について意見を伺いました。ここでは多くのご両親が“子供は何をするからわからないからきちんと見守っていたいと”いう声が目立ちました。最近では中高生の授業がZoomで行われることも多く、子供が部屋からほとんど出てこなくなったというのです。このようなケースでは、リビングに透明な間仕切りやボックスなどを設置して、お互いのプライバシーを守りつつ子供を見守れるような空間を作ることが得策であると考えます。とはいえ家族でも見られたくない部分もあるので、家族の距離感をどう保っていくのかも、人間中心な設計を考える上で大事なところですね。それには心理も影響してくるので、深掘りする調査も実施していく必要があるでしょう。

新しい間仕切りのイメージ

テレワークの混線を防ぎ、書斎的環境や子どもとのコミュニケーションを重視した造りの新しい間仕切りのイメージ

西山 敏樹(ニシヤマ トシキ)

所属:都市生活学部 都市生活学科
職名:准教授
出身大学院:慶應義塾大学 修士 (政策・メディア研究科) 2000年 修了 慶應義塾大学 博士 (政策・メディア研究科) 2003年 修了
出身学校:慶應義塾大学 (総合政策学部) 1998年 卒業
取得学位:博士(政策・メディア) 慶應義塾大学 2003 年
研究分野:社会システム工学・安全システム
研究分野/キーワード:ユニバーサルデザイン、福祉のまちづくり、都市交通、モビリティ論、社会調査法

ライター:未来都市編集部

東京都市大学 総合研究所 未来都市編集部です。未来の都市やまちづくりに興味・関心を持つ方に向けて、鋭意取材中!