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アライアンスでセンサーネットワークの世界標準化を目指す、「EnOcean」の展望とは

未来都市編集部4,644 views

東京都市大学未来都市研究機構は、7月30日、二子玉川夢キャンパス(東京・世田谷区)にて、「未来都市研究機構 第5回セミナー(第136回総研セミナー)」を開催した。本セミナーは「私立大学研究ブランディング事業」の一環として開催されたもので、5回目のテーマは「都市と健康生活」。「健康領域」の活動報告のほか3人の専門家が登壇し、前半ではセンサーネットワーク技術について、後半では睡眠および温浴効果について講演を行った。

第1回目は、EnOcean Alliance アジア地区担当副会長、板垣一美氏の講演内容をレポートする。テーマは、「センサーネットワークEnOceanの展望」。

EnOcean Alliance アジア地区担当副会長 板垣一美氏

EnOcean(エンオーシャン)とは、「エネルギーハーベスティング無線通信技術」のこと。光や熱、振動など周囲の環境からエネルギーを作り出し、電力に変換する画期的な技術だ。2001年、独シーメンスから独立したEnOcean社は、エネルギーハーベスティング無線スイッチおよびセンサのパイオニアで、基本特許および関連特許を持つ。アジア地区のライセンシー事業を統括する板垣副会長が抱く、センサーネットワーク「EnOcean」のビジョンとは。

加速するIoT化に不可欠なセンサーネットワーク

センサーネットワークとは、建物や構造物などにセンサ付きの無線端末を複数設置し、計測したデータを基に環境改善に活かすことを目的としたネットワークのこと。センサーネットワークは、ビルオートメーションや工場などの設備、スマートホーム・IoT家電など様々なところで活用されている。
IoT化が進む昨今、センサに永続的に接続される“モノ”の数は2020年までに300億個、モノに接続されるセンサ数は50兆個にも上ると予測されている。人間が生活を営む上で、センサーネットワークは必要不可欠なものと言っても過言ではない。

しかし、センサーネットワークを構築するにあたって大きな課題がある。それは、「何兆個ものIoTデバイスに、どのような方法で電力を供給するか」だ。
最先端のセンサ付き無線端末では、電力源を必要とせず無線で数値データを取得できるのがメリットだが、当然、世間では従来の電池式や有線式端末が数多く使われているのが現状だ。センサーネットワークのさらなる発展には、「エネルギーハーベスティングにより電池搭載を不要とし、電源供給のための配線を無くし、メンテナンスの手間を抑えられるか」がカギとなる。板垣氏は、「それらを解決する技術こそEnOceanだ」と語る。

EnOcean Alliance アジア地区担当副会長 板垣一美氏

キーワードは、「無線式」「バッテリー不要」「無制限」

EnOceanの技術力を象徴する言葉は、「No Wires.」「No Batteries.」「No Limits.」の3つ。すなわち「無線通信にバッテリーを必要とせず、半永久的に使えて、自由度が高い」ことが、最大のアピールポイントだ。特長を詳しく見てみよう。

EnOcean社が提供するエネルギーハーベスティング無線モジュールは、主にビルや一般家庭における壁越しの通信に対応した「EnOcean Dolphin(928.35MHz)」のほか、より長距離の無線通信に対応したLPWA※方式のモジュール「EnOcean Long Range(925MHz)」もある。(※LPWAとは消費電力を抑えながら遠距離通信を可能にする通信方式で、屋外などの離れた場所でもモニタリングが可能になる)。EnOcean Dolphinはスマートハウスや家電製品など、EnOcean Long Rangeは農業用途や穀温倉庫、BEMS、河川の監視などに活用されている。
ほかにも、BluetoothおよびZigBee対応のエネルギーハーベスティング無線スイッチ・センサの提供も開始している。

EnOceanとは

EnOceanを採用した無線端末は、わずかな光や熱などからエネルギーを生産できるため、電池も電力供給のための配線も必要としない。電池交換などのメンテナンスも不要で耐久性も高い。オフィスビルや自宅に設置すれば、遠隔操作で照明の調光や温度管理などができる。また橋梁などの構造物に設置すれば、電車や自動車などの振動による影響を確認することができる。

EnOcean社は、積極的なアライアンス活動により無線通信技術の国際標準化を目指している。世界的に規格化が進めば、各メーカー製品の互換性を確保することが可能だ。またこの技術をビルなどに採用することで、省エネ化やセキュリティ強化、快適さの向上も見込める。

EnOceanの導入事例

EnOceanを採用した製品ラインナップは幅広い。現在、照明・カーテン・シャッター制御装置や照度センサ、人感センサ、カードキー、冷暖房空調センサ、温度・湿度等の設定パネル、水漏れセンサなど、100社から2,000種もの市販製品が販売されている。これらは、ビルオートメーションシステム(BAS)やビルエネルギーマネジメントシステム(BEMS)などにも使用されており、特に欧米諸国ではEnOceanがデファクトスタンダードとなっている。EnOceanをビルオートメーションに応用することで、煩雑な配線が減り、3~4割の省エネ化を達成できるようになる。

導入先に話を移すと、海外では、オフィスビルをはじめ空港、病院、学校、工場、展示会場、住居、歴史的建造物など、既に100万棟以上に設置・導入されている。日本でも、オフィスビルやショッピングセンター、病院、工場、図書館、文化財のほか、ビニールハウスやデンタルクリニック、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)など様々な場所で利用されている。

最後に導入のメリットをいくつか紹介しよう。板垣氏によると、例えばビニールハウスに設置すれば、水を与える時期や温度管理のほか、収穫期を測ることもできるそうだ。デンタルクリニックでは、足元の配線をできる限り無くすことで、スムーズに患者の治療を行える。サ高住では、室温や照明の変化、冷蔵庫の開閉など、入居者の生活ログを取ることで健康と安全を見守ることができる。

屋外の事例では、鉄道やハイウェイ、橋梁といった構造物のモニタリングに採用されているそうだ。EnOceanの技術で雪崩や落石、構造物の強度の変化などを監視できるのは大きなメリットだが、積雪などで近づけずデータを取得できないこともある。そのため、より広い範囲に無線を飛ばせるよう、カバレッジの向上が求められる。板垣氏は「高速通信ができる」ことと「通信回数は無制限」という条件を備えたまま、「さらに通信距離を延ばせるように開発を進めている」と語った。

EnOcean Alliance アジア地区担当副会長 板垣一美氏

おわりに

EnOceanの汎用性は高く、世界規模で様々な用途に使われている。IBM Watson(AI)を利用した「EnOcean IoT プロジェクト」も大々的にスタートしており、その技術を採用した製品は、今後ますます社会に浸透していくことが予想される。EnOceanは遠い技術ではなく、より生活に密着した身近な技術として我々の生活を支えることになるだろう。

板垣 一美 氏

EnOcean Alliance
アジア地区担当副会長

ライター:未来都市編集部

東京都市大学 総合研究所 未来都市編集部です。未来の都市やまちづくりに興味・関心を持つ方に向けて、鋭意取材中!