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グリーンインフラの使命 第3回「生態系ネットワークと、人間をつなぐ」

未来都市編集部2,710 views

ソサエティ5.0への社会を目指す私たちの都市。その中においてグリーンインフラは、都市機能を補完するだけではなく、私たちの生命活動の根幹を支えている側面もあるそうです。最終回では、環境領域が今後追究していくことについてご紹介します。飯島健太郎 環境学部 教授には、東京都市大学が目指すグリーンインフラの地平についても語っていただきます。

第1回の記事はこちら、第2回の記事はこちらです。

多彩で複合的な、さらなるソリューションを追究

環境領域では、今後もそれぞれの研究テーマにおいて、目の前の社会課題、地域課題の解決を探っていきます。年々気候が暑くなる中、グリーンインフラによる土地利用での環境の改善、修復は大きなテーマです。このほか、再開発を妨げ、社会に風評被害をもたらす土壌汚染などの解消にも引き続き力を入れていきます。

また、今はいつ直下型の大地震が訪れてもおかしくない時期と言われています。そのような中、多くの建物が改修・更新の時期にあります。防災・減災に関しては、そこに複合機能的なグリーンインフラの組み込みを提言していきます。臨海部に樹林を配置することで、万一の津波の力を分散して避難する時間をできるだけ長くするなど、さまざまな機能について検証、周知し、よりよい都市づくりに貢献します。

グリーンインフラによる人のストレスマネジメントについても、新たな知見を求めていきます。例えば、緑の中をトレッキングすれば、浄化・殺菌された空気の中で呼吸すればリフレッシュします。緑地で歩くことで脳が落ち着きを取り戻すなど、さまざまな効果があると言われています。それらを検証し、都市で暮らす人々の生活に役立てていきます。

飯島 健太郎 教授

リアリティを失い、断片化する未来都市

環境領域では、都市に住まい、働く人たちの未来についても考えています。気象災害の激甚化が進み、IT技術の発達によるソサエティ5.0が実現された時、そこにはどんな生活が待っているのか。おそらくコンパクトシティ化がより進展し、情報で社会は緻密につながる一方で、空間は断片化していくでしょう。シェルターの中にいても、仕事も生活も多くのことがこなせます。通勤地獄から回避でき、どこにいても会議に出席することが出来ます。自動運転車両での移動やドローンによる物流も、もうそこまで現実味を帯びてきています。

しかし、昨今の世の中の出来事を顧みた時、生物としての私たちは、その激しい変化に対応しきれず、思考、脳、運動機能に多くのトラブルを引き起こしていくのではないかと危惧しています。1990年代後半以降、日本国内の自殺者数が年間3万人を超えるようになりました。個体の継承と種族の繁栄の中で生命活動する生物にとって、自ら命を絶つ行動は極めて珍しい現象です。そのため、自殺者増加は生物としての危機的状況ではないかと考えます。

因果関係は明らかになっていませんが、3万人を超え始めた時期が、ITが発達し、情報化社会が急速に進んだ時期と符合するのです。2015年のある調査によると、IT発達以前の1990年代前半と比較し、私たちの脳が処理する情報は50倍にもなっているそうです。IT社会と言われるようになってからまだ数十年のため、このような中で人間の脳が健全なまま年を重ねられるかどうか、確かめられてはいません。しかし、認知症の増加、犯罪の猟奇化など、人の脳や精神に何らかの影響を与えている可能性が無きにしもあらずです。

また、サイバー環境の発達により、人と人との交流もSNSなどで完結するようになっています。こうしてどんどんリアリティのある世界から遠ざかり、孤立した環境で生きていく社会になっていく恐れがあります。そんなリアリティが欠如したアンバランスさが、私たちに生物としての異変を起こしているのではないかと考えてしまうのです。

ソサエティ5.0で、生命活動の健全性を担保する

そもそも生物は、生態系という大きなネットワークの中で、お互いに干渉しあって生命活動を維持しています。この生態系ネットワークから外れることが意味するのは、生命圏外という環境です。例えば、街の真ん中に水を張ったバケツを1つ、置いたとしましょう。1日たってもトンボなどの生物が1匹も来なかったとしたら、危機を感じるべきです。そこは、生態系ネットワークから切り離された人為的な空間だからです。

ソサエティ5.0は新たな産業を生み、社会生活をより豊かで便利にするので、むしろ歓迎しています。それぞれの地域で社会が完結するコンパクトシティが点在する効率的な世の中になるかもしれません。しかし、全体としてのわれわれの活動は、生態系の土地利用の中にあります。その健全性を担保しなければなりません。そこに関わってくるのがグリーンインフラなのではないかと考えます。一般に都市計画というと、サイバー環境の中だけで設計する場合がほとんどです。東京都市大学は、他の領域と連携しつつ、グリーンインフラ研究ユニットも設置しているところがユニークだと思います。

都市の緑地から緑地へ、他の動植物が物質的につないでいく生態系ネットワーク。その中にあり、草木を愛で、週末農業などで自然とふれあえる新たなライフスタイル。そのようなリアリティが、私たちが生物としてのバランスを整える上で、重要な役割を果たすのではないでしょうか。

飯島 健太郎 教授

飯島 健太郎(イイジマ ケンタロウ)

所属:総合研究所 環境学部
職名:教授
出身大学院:東京農業大学 修士 (農学研究科) 1994年 修了、東京農業大学 博士 (農学研究科) 1997年 修了
出身学校:東京農業大学 (農学部) 1992年 卒業
取得学位:博士(農学) 東京農業大学1997年
研究分野:環境緑地学、造園学、公衆衛生学

ライター:未来都市編集部

東京都市大学 総合研究所 未来都市編集部です。未来の都市やまちづくりに興味・関心を持つ方に向けて、鋭意取材中!