これまで行なわれてきたハードウェア主体のグレーインフラから、今後は緑地を中心としたグリーンインフラの活用が期待されています。東京都市大学では未来都市研究機構のグリーンインフラマネジメントユニットをはじめ、環境改善や減災・防災、健康増進など多岐にわたる視点で緑地空間の機能を明らかにし、その成果を都市環境に還元する具体的な方法について研究が進められています。
この度、環境領域が専門の7人の先生方が一堂に会し、現在進められている東京都市大学におけるグリーンインフラユニットマネジメント研究について、意見交換会を開催。その内容を4回に分けて掲載します。
第3回となる今回は、「健康・ストレスマネジメント」「公益性・環境不動産価値・グリーンコミュニティ」の観点からの研究内容を紹介します。
東京都市大学:対談プロフェッショナル
<ファシリテーター>
飯島健太郎 教授(環境学部・総合研究所・グリーンインフラマネジメントユニット長)
<コメンテーター>
横田樹広 准教授(環境学部・総合研究所・グリーンインフラマネジメントユニット)
リジャルH.B. 教授(環境学部・グリーンインフラマネジメントユニット)
吉田真史 教授(知識工学部・グリーンインフラマネジメントユニット)
福田達哉 教授(知識工学部・グリーンインフラマネジメントユニット)
堀川朗彦 客員研究員(ランドスケープアーキテクト・総合研究所)
山﨑正代 客員研究員(ランドスケープアーキテクト・総合研究所)
グリーンインフラが影響を及ぼす健康やストレスマネジメント
飯島教授
より人の暮らしに近いところで、健康やストレスマネジメントについて考えてみたいわけですが、まず「建築と健康」というところから、建築環境、中でも温熱環境・熱的快適性が専門のリジャル先生に研究のお話をいただければと思います。
リジャル教授
まず都市化によって、緑を身近に利用できないという状況があります。昔ながらの日本の住宅であれば自然の素材を利用し、庭もあったので、冷暖房を利用しなくても人々がそこまで不快に感じていませんでした。しかし都市化や人工的な建材よって熱が蓄えられますので、不快の度合いが増していきます。最近では、壁や天井からの輻射熱を抑える効果がある屋上、壁面緑化が広まっていますが、夏の放射環境の改善をするためにグリーンカーテンも有効ではないかと考え、調査を行なっています。
緑があると気温は同じでも涼しく感じる
今やっているのは、2018年7月に発足した「明和地所と東京都市大、環境共生型マンションのグリーンインフラマネジメントに関する共同研究プロジェクト」です。横浜市にあるマンションで7世帯のバルコニーに緑のカーテンを設置して、緑のカーテンがあるとないとでどう温熱環境が違うか、気温、相対湿度の違い、電気代などの調査をしています。現在はまだ分析中ですが、緑のカーテンがある方が、家の中の体感温度が約1℃下がるということがわかっています。
また緑というのは温熱環境の緩和効果だけではなく、心理的な面に影響してきます。緑があると気温は同じでも涼しく感じますよね。そうした視点の研究は少ないので、「室内空間の緑の有無で体感温度がどう変わるのか」という調査をこれから進めていく予定です。
芝に触れることで癒しの効果はあるか
飯島教授
身近な建築環境の中での温熱の問題を緑が改善し、健康につながるということがわかってきていますが、さらに疲労回復、精神衛生、ストレスマネジメントという切り口から緑の知覚効用の研究がおこなわれています。例えば緑、芝生に触れることはどのような生理的作用があるのかについて研究紹介を、山崎研究員にお願いします。
山崎研究員
「ソサエティ5.0」という社会が来ようとしている中、すでにITに関わっている人には多大なストレスがかかり、心因性の疾患が増えています。緑によるストレスマネジメント効果の例として「芝に触れることで癒しの効果はあるか」についての検証にチャレンジしています。芝に触れた際に、脳の前頭前野の血流に含まれる酸素量がどう変化するかを調査し、癒し効果の数値化を試みています。多くの人が感じてはいるけれど、立証されていない緑の役割を少しでも数値化し、積み重ねていくことで、グリーンインフラがより身近になっていくでしょうし、緑の役割を一般の人にわかりやすく伝えていくことができるのではと思っています。
近接する公園緑地が土地の価値を下げ止める
飯島教授
続いて環境不動産価値について、山崎研究員に紹介をお願いしたいのですが、実際に等々力渓谷や駒沢公園、六義園といった公園緑地周辺には、その名を冠したマンションなどが多くありますが、「グリーンインフラと経済の関係」という視点も重要な研究テーマになりえますよね。
山崎研究員
公園緑地に近接するオフィスやマンションは賃料が多く取れるということは前々からあったことですが、土地の価格はどうなのだろうと調査してみました。その結果、緑地のそばだからといって値段が上がり続けるということはないのですが、リーマンショックの時期のような経済が明らかに落ちている時に、その価値を下げ止める効果がありそうだとわかってきました。具体的には、近隣公園からの距離が500m以内であれば、下げ止まりが見られます。歴史的な公園や庭園の場合はさらにその範囲が広がっていて、やはり公園緑地と地域ブランドの価値を示しているのではないかという結果が出ています。
都市が自分ごとになる「グリーンコミュニティ」
飯島教授
グリーンインフラは実は目的へのプロセス。環境学部の涌井特別教授が提示されている重要な目的として「グリーンコミュニティ」というのがあります。関連研究をされている山崎研究員に紹介をお願いします。
山崎研究員
「グリーンコミュニティ」という言葉はまだ一般化していませんが、緑地の維持や保全などの活動に関わることで、都市が自分ごとになるという考えです。実際に参加している方に尋ねると「手を入れることで地域に愛着を持つ」とみなさん仰います。緑をきっかけに周りのことが気になり始めて、どんどん広がっていく効果があるのです。ソーシャルキャピタルという視点で、今、練馬で研究を始めているところです。
飯島 健太郎(イイジマ ケンタロウ)
所属:総合研究所 環境学部
職名:教授
出身大学院:東京農業大学 修士 (農学研究科) 1994年 修了、東京農業大学 博士 (農学研究科) 1997年 修了
出身学校:東京農業大学 (農学部) 1992年 卒業
取得学位:博士(農学) 東京農業大学1997年
研究分野:環境緑地学、造園学、公衆衛生学
キーワード:都市緑化、グリーンインフラ
横田 樹広(ヨコタ シゲヒロ)
所属:環境学部 環境創生学科
職名:准教授
出身大学院:東京大学 修士 (農学生命科学研究科) 2001年 修了、東京大学 博士 (農学生命科学研究科) 2009年 修了
出身学校:東京大学 (農学部) 1999年 卒業
取得学位:博士(農学) 東京大学 2009年
研究分野:都市生態学、ランドスケープ・エコロジー、緑地計画
キーワード:ランドスケープ計画、ランドスケープ・エコロジー
Rijal H.B.(リジャルH.B.)
所属:環境学部 環境創生学科
職名:教授
出身大学院:京都大学 環境地球工学専攻 修士 2000年 修了、京都大学 環境地球工学専攻 博士 2004年 修了
出身大学:芝浦工業大学 建築工学科 1998年 卒業
取得学位:博士(工学) 京都大学 2004年
研究分野:建築環境、都市環境
キーワード:熱的快適性、環境調整行動
吉田 真史(ヨシダ マサフミ)
所属:知識工学部 自然科学科
職名:教授
出身大学院:東京大学 修士 (総合文化研究科) 1989年 修了、東京大学 博士 (総合文化研究科) 1992年 単位取得退学
出身学校:東京大学 (教養学部) 1987年 卒業
取得学位:博士(学術) 東京大学 1994年
研究分野:分析化学、天然物化学、生物物理学、計算化学
キーワード:水質分析、土壌分析、機器分析、計算機シミュレーション
福田 達哉(フクダ タツヤ)
所属:知識工学部 自然科学科
職名:教授
出身大学院:東北大学 修士 (理学研究科) 1997年 修了、東北大学 博士 (理学研究科) 2003年修了
出身学校:東北大学 (理学部) 1995年 卒業
取得学位:博士(理学) 東北大学 2003年
研究分野:生態学、遺伝学、分類学
キーワード:生物多様性、環境適応
堀川 朗彦(ホリカワ アキヒコ)
所属(職名):総合研究所(客員研究員)
委員会等:三鷹市景観審議会(委員)
資格:技術士(都市及び地方計画)、登録ランドスケープアーキテクト、一級土木施工管理技士
研究分野:造園学、都市計画
キーワード:ランドスケープ、景観・都市デザイン、住民参加まちづくり
山﨑 正代(ヤマサキ マサヨ)
所属(職名):総合研究所(客員研究員)
委員会等:JLAU(一般社団法人 ランドスケープアーキテクト連盟)理事
資格:技術士(都市及び地方計画)、登録ランドスケープアークテクト、一級建築士
研究分野:造園学、都市計画
キーワード:ランドスケープ、景観・都市デザイン、住民参加まちづくり