東京都市大学で経営・経済などの商学を教えられている橋本講師。未来都市研究機構では、生活領域の中で未来をより良いものに創造する研究をされています。今回は、近年私たちの身近なところで徐々に広がりを見せている「シェアリングエコノミー」とその関連ビジネスなどについてお話をお伺いしました。
「世の中のライフスタイルを変えつつあるシェアリングエコノミー」
企業がなんらかの新しいビジネスやサービスを提供することで、世の中のライフスタイルは常に変化していきます。最近の具体的なサービスといえば、ニュースでよく民泊の営業の在り方などで話題に上がっている「Airbnb」や、スマートフォン・GPSなどを活用したタクシーサービス「Uber」などが挙げられますね。これらは主に海外から流れてきたビジネススタイルですが、日本企業のサービスでは「タイムズ」のカーシェアリングなども有名です。
シェアリングエコノミーとはソーシャルメディアを活用した新たな経済活動で、基本的には個人が保有している遊休資産を活用することを指します。提供する側はこれまで眠らせていた物や隙間時間を利用して収入を得ることができ、サービスを受ける側にとっては物を所有することなく利用できるという大きなメリットがあります。
先に述べた3つのビジネスでは「土地」「空間」「車」といった遊休資産をサービスに活用していますが、他にも家事代行としてスキルを売ったり、講師として知識を売ったりするなど様々な形態でサービスが広がりを見せています。
「サービスが復活を遂げたのは、ICTがあってこそ」
どれも目新しいサービスのように思えますが、これらの原点は古き良き時代の日本でずっと行われてきた“助け合いの精神”が発端といえます。
つい一昔前までは、ご近所で物を貸し借りすることは当たり前でした。また車がまだ一家に一台持てないような時代には、「ちょっとうちの子を病院まで乗せて行って貰えないかしら」とお願いするようなこともありました。しかし現代社会ではこういった親密な関係は希薄になり、今ではマンションの隣に誰が住んでいるかもわからない時代になっていますよね。
そんな時代の中で目覚ましくシェアリングサービス事業が伸びてきたのは、ICT(※情報処理や通信に関連する技術、産業・設備・サービスなどの総称。Information and Communication Technologyの略)があってこそです。
特にソーシャルメディアの普及で、人々はインターネットを利用して誰でも手軽に情報を発信したり、相互にやり取りしたりすることが可能になりました。バーチャルの世界でも生活に密着した情報交換が盛んになったのです。これによって、貸し借りやサービスを仲介するメディアが出現しました。シェアリングサービスは、いわば「欲しい人と与えたい人を引き合わせるマッチングサービス」です。
「ビジネスモデルについて考える、3つのキーワード」
これらのビジネスを動かすために、経済学の観点で考えるべき3つのキーワードから、シェアリングエコノミーを読み解いてみましょう。
1.「機会費用」他の選択肢を選択していれば得られたであろう、最大の利益のこと
シェアリングサービスを始める第一歩につなげるためには、「機会費用」を意識することが欠かせません。遊休資産など見るからに使っていない土地の活用だけでなく、自営業を営んでいる所有物件の活用方法について考えるなど、機会費用を考えられるものは様々です。所有している物件で自営業を続けるよりも、そこをテナントとして貸し出す方がもっと利益が上がる可能性はないのか、などにも着目すべきなのです。
普段何気なく過ごしている時間や使ったりしているものを見直し、無駄をなくせば収入につなげられるビジネスチャンスはグンと広がりを見せるのです。
2.「権利」経済的な意味での所有権や販売権など
次に「権利」について。家事代行を例にすると、“家事”というスキルを販売する権利などを指します。一般的に家事労働の対価は、家庭内では発生しないものです。しかし外に目を向ければ、そのスキルをサービスとして求めている人がいます。それに気が付くと、家事サービスを受ける権利・売る権利・買う権利として捉えることができますよね。専業主婦の方も隙間時間を利用して働くことができるわけです。
3.「取引費用」取引をする際に発する費用・手間や労力など見えないもの
取引費用について。ざっくり言えば、これは“手間”を指す言葉です。サービスを提供する側にとっては、買ってくれる相手を探す手間、価格設定や値段交渉をする手間。サービスを受ける側にとっては、購入した物やサービスがきちんとしたものか否かを監視する必要性などでしょうか。
スーパーへ買い物に行けば値札を見て支払うだけで済みますが、そこには色んな手間賃が含まれています。あまりにも取引費用(=コスト)が高いと買ってくれる人が現れませんが、シェアリングエコノミー型のビジネスではICTを介しているおかげで、ずいぶんと手間が軽減され、誰でも幅広く取引することが可能となったのです。
シェアリングサービスには取引後に評価できるシステムもあるので、サービス提供者と利用者がお互いを信頼するための判断材料にもなります。
シェアリングエコノミーは、ネットで家にあるものを売買できる「メルカリ」など、若い人たち中心に受け入れられ浸透してきたビジネスモデルですが、これからの働き方改革も含め、ますます我々の生活の中で形を変え発展していくのではないでしょうか。
橋本 倫明(ハシモト ノリアキ)
所属:都市生活学部 都市生活学科
職名:講師
出身大学院:慶應義塾大学 博士 (商学研究科) 2014年 単位取得満期退学
出身学校:慶應義塾大学 (商学部) 2009年 卒業
取得学位:博士(商学) 慶應義塾大学 2016年
研究分野/キーワード:経営学、組織の経済学