物のIT化はすさまじく、現代は多くの人と物がインターネットで繋がり、情報を活用しています。スマートフォンに話しかければ会話のように音声ガイダンスが応答し、目的地までスマートに案内してくれる…。外出中に留守番をしているペットの様子が気になれば、すぐにスマホの画面で家の中をモニタリングできる…。などなど技術の応用は多岐にわたっています。
IoTの進化が加速し、利便性がどんどん高まっている一方、我が国では少子高齢化といった社会問題がますます深刻化しているという側面もあります。実は、老いているのは人間だけではなく、道路や橋や建物も同じだということを知っているでしょうか。
こういったエイジングシティー問題を危機として捉えるのではなく、魅力的な成熟都市へ発展するための好機と考えているのが、東京都市大学の先生方です。ビッグデータと呼ばれる情報を活用して街全体を効率的に進化させるべく、共同研究をされている3人の先生方にお話を伺いました。
東京都市大学:対談プロフェッショナル
今井 龍一 准教授 ( 工学部 都市工学科 )
岡田 啓 准教授 ( 環境学部 環境マネジメント学科 )
林 和眞 講師 ( 都市生活学部 都市生活学科 )
「未来を予測するには、まず現状を知ることが大切」
ここでいうビッグデータとは、スマートフォンやインターネットを通じて収集された位置情報や行動履歴やパターン、さらにWebサイトやテレビの閲覧・視聴に関する情報などから得られる膨大なデータのことを指します。
今やほとんどの人が一人1台のGPS機能付きの携帯電話を持ち、様々な情報が基地局に集められ、サービスの改善などに役立てられています。
――― 林講師
最近のデータは非常に多様化してきており、そのサイズもかなり大きくなっています。このような多様で、大量で、リアルタイムの特徴をもっているデータをビッグデータと称しております。また、最近の情報技術の発展につれ、ますますそういったビッグデータを随時、多様な観点から解析する能力も同様に高まってきています。
我々のスマートフォンはGPS位置情報を送信していますし、都市の生活の中で利用しているPASMOやSUICAなどの記録もビッグデータとして集積されています。それらを集めたり、モニタリングしたりすることで、地域の中でどのように人が動いているのかなどを分析しているのです。
位置情報は地図上で様子を掴むことができ、人口の移り変わりなどを知ることができるんです。
林和眞講師
―――今井准教授
人も街も同時に歳をとっていく中で、人がずっと住み続けていく場所はどこなのか?などを考えて見ていくことを都市活動のモニタリングシステムとしています。
現在のところ、これまでの人口規模にて納められた税収によって、私たちが今使っている道路や下水管など色んな物が供給されています。しかし、これから先は人口がどんどん減っていくに伴って税収も減っていくわけですから、今ある全ての道路や公共設備の全てをくまなくメンテナンスしていくことは難しくなっていくでしょう。
そこでビッグデータを利用するのです。人や車がいつも行き来している道路はどこなのか?などをモニタリングして絞り込むことによって、建物やインフラなどが老朽化していく中で必要なメンテナンスを的確なところへ施していくことができます。
まずはインフラがどうなっているのか、人の動きや対流がどうなっているのか、その両方がわかるようなデータをしっかりと収集して組み合わせて現状を知ることで将来を予測していきましょう、というのが我々の情報領域の研究の目指すところになります。
今井龍一准教授
――― 林講師
我々が取り組む研究は、情報領域の中でもシニアライフマーケティングと称されています。でもそれは高齢者のためだけの研究ではありません。
例えばインフラ整備で高齢者が使いやすい道をつくることは、育児中でベビーカーを押すような若い世代の人たちにとっても優しいというわけです。つまりアンチエイジング対策のみではなく、都市のスマートエイジング。多くの居住者にとって使いやすく、生活の質の向上に寄与するという観点に基づいて進められています。
――― 岡田准教授
お二人の先生は技術面などで研究をされていますが、私は制度的な面でこの研究をサポートしています。
例えば、個人のプライバシーを守りつつ、どのように利用していくのか?といった問題も出てきますよね。日本での高齢化率は25%を越え、この数字は将来、下ることはない状態です。東京都市圏は3千万人の居住者がいますが、その中でおよそ900~1000万人の人間が高齢化していくという、世界でも例を見ない状況にあります。
高齢者が増えると労働人口が少なくなり税収が減る。その中で街も老朽化して再構築が必要となる。そういった時にビッグデータを活用して未来に繋げていこうというわけですが、そのデータ運用に対して制度上で問題がなくても社会が認めない場合があります。
一方、プライバシーが守られすぎて起こる弊害もあります。例えば、独居老人の孤独死が例としてあげられます。集められた情報を利用して行政がどこまで踏み入って、住民サポートとして介入していくのかについても検討していかねばならないのです。
岡田啓准教授
日本は高齢化のトップランナーであり、都市のスマートエイジング研究は国際社会に先行する重要テーマのひとつ。今回のお話から、研究の概要や背景などについて詳しく知ることができました。
次回は、交通ビッグデータについてお伺いします。