これまで2回にわたってレポートしてきた、東京都市大学未来都市研究機構と町田市未来づくり研究所による共同研究「町田市未来都市研究 2050」の座談会。最終回は、2050年に向けた郊外型都市の展望について意見が交わされました。
郊外都市の未来について、町田市未来づくり研究所の所長の市川宏雄先生(明治大学名誉教授)と担当係長の野田健太郎氏、東京都市大学の西山敏樹准教授、北見幸一准教授の知見を伺います。
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「技術」を住民は受け入れるのか
北見准教授
2050年に向けた郊外型都市の展望について、話題を移したいと思います。技術的要因ではDXがキーワードの一つになりうるという話が出ましたが、それについてどうお考えですか?
市川先生
テクノロジーが進んでいるが、それで人が幸せになるのかというのが究極のテーマです。例えば、情報化が進んだら効率化するかと思ったら、データ処理が早くなって人間の仕事がかえって増えてしまった側面もありますよね?また、DXによって全部デジタルになるのがいいのか?情報セキュリティの問題はクリアできるのか? また日本は、デジタル化に対して市民感情的に相当な抵抗感があります。例として、マイナンバーカードを作った人は15%程度とも言われています。もしDXを進めるなら、その認識をどうするかが大きな課題となるでしょう。「要請」のようなお願いベースだと、難しいと思います。
西山准教授
新型コロナウイルス感染症の対策においてもそうでしたが、日本は権利を残すことが美徳と捉えられるところがありますよね。でも、それは要するに、政府の覚悟の問題だと思います。デジタル化という大掛かりなことを強行し、それによってハッピーな結果を出す。「やるんだ」という覚悟です。いずれ世界はDXの流れにありますからね。
西山敏樹 東京都市大学 総合研究所 未来都市研究機構 ヒューマン・センタード・デザイン研究ユニット長
市川先生
その一方で、テクノロジーで実現できても、住民が受け入れないならダメというケースもあります。グーグル傘下企業が米トロントで計画していたスマートシティのプロジェクトが頓挫したのも、その一例。人の行動を、データを取ることで予測する未来都市構想でしたが、個人のプライバシーが脅かされることを嫌った住民が「NO」と言ったわけです。ただ、人間の意識変化は変化するもの。30年後の意識変化まで予測する必要があります。
野田氏
合意形成は難関でしょう。日本でも「スーパーシティ」構想が掲げられていますが、これは、AIやビッグデータを駆使して、分野横断的に住民の社会的課題を解決する「まるごと未来都市」を目指すもの。大前提として、住民の合意形成のもと、大胆な規制緩和が求められています。あの動きを見ていて思うのは、なにもないところに都市をつくる、例えばトヨタ自動車株式会社の「コネクティッド・シティ」などは、おそらく実現できるかと思います。でも、多くの自治体は、既得権益があるものを規制緩和する難しさを知っているため、二の足を踏んでいます。
市川先生
規制緩和は相当ハードルが高いと思います。やるかやらないか、これはもう完全に自治体のトップの力。そのような意味で、規制緩和ではないが普通の思考では実現しないことをやってみようと町田市が町田市未来づくり研究所をつくったところがすごいと思います。
コロナ禍がもたらした多様性
北見准教授
意識の変化が大事という話に関連しますが、町田市の住民に新型コロナウイルス感染症拡大の影響による意識の変化を調査(注)しました(図表1参照)。そのなかで「都心よりも郊外に魅力を感じる」と考える率が、かなり高くなっていました。今までは効率が大事でしたが、そういった働き方ではなく、質に向かっているのかなとも思いますが、いかがでしょうか?
町田市の新型コロナウイルスによる感染症(Covid-19)による影響(n=996)
市川先生
これは、一時的なものだと思います。今回は都心の「密」が危ない気がするから郊外に、ということではないでしょうか。部分的に人は逃げているけど、全体的にはあまり変わっていません。仕事や生活の便利さに違いがあるからです。「いずれコロナ禍は収まる」と考える人が大半でしょう。そう考えると、今からわざわざ郊外に引っ越すまでもありません。逆に、これから都心に住もうと思っていた人も、コロナ禍で考えを変えたのは、最大でも5%ぐらいではないかと思います。ただ、30年後はコロナ禍の影響ではなく、人口が減っているので住居も空きが増え、都心か郊外か、選べるようになるでしょう。今は都心が圧倒的に便利ですが、郊外もデジタルで何でもできるようになる。
例えば、欲しいものは店まで行かなくてもドローンで何でも持ってきてくれるかもしれませんし、仕事もリモートでできる。同じ生活条件の下で都心なのか郊外なのかを選ぶということになります。今回のコロナ禍での変化を挙げるとすると、生活スタイルのバリエーションが広がったこと。今までの一極集中から、無理やり「疎」であることを選択させられて、「デジタルで、こんなことができるんだ」とわかったことだと思います。
西山准教授
大学も、講義がリモートと対面のハイブリッドになり、学生が自由に選べるようになりましたからね。その一方で、先ほどの町田市の意識調査でも、「技術に振り回されたくない」という人も一定数は存在しますね。
市川先生
これは、世代で分けてみなければならないと思います。特に、若い世代が「技術に振り回されたくない」という意識が高かったら考えなくてはなりません。アメリカでも似たような意識調査が行われたのですが、一説によると若い人のほうが、早く会社に行きたいと思っているようなんです。これは、若い人のほうがデジタルに詳しく、その欠点も知っているからだと考えます。年齢が高い世代のほうが「(リモートが)できるじゃないか!」と思うようです。
デュアルライフでも、選ばれる都市に
北見准教授
このように、住民が住む場所を選べるようになると、あえて東京の郊外にいなくていいとなりそうですね。
北見幸一 東京都市大学 総合研究所 未来都市研究機構 都市マネジメント研究ユニット長
西山准教授
実は、そこが今後大きな問題になると思っています。町田市は都心からのアクセスが約30分。それに対し、例えば厚木市は約40分です。厚木市と比較すると、町田市は郊外感が中途半端だと思うんです。これから、町田市は「都市」に寄っていくのか、自然と戯れる「郊外」を目指すのか。今まさに、曲がり角なところに来ていると思います。
市川先生
都心へのアクセス問題の最大のテーマは、通勤です。今、テレワークに取り組む企業は多いですが、いずれは通常に戻ると多くの大企業の経営者は思っています。果たしてどちらに進むのか、これから半年ほどの動きで、わかってくると思います。
野田氏
市役所も緊急事態宣言からは自宅でのテレワークが進んでいますが、これは一時的なものでさほど浸透しないのではないかという見方です。例えば、打ち合わせをするにしても、テレワーク下でどう設定するのか、参加者のうち1人だけがテレワークの場合はどうするか、などといった煩雑さがありますから。
野田健太郎 町田市未来づくり研究所担当係長
市川先生
いずれは乗り越えられると思うんです。さまざまな分野で、多様性を認め合う社会になっていけばいいんじゃないかと。
西山准教授
やはり、デジタル技術を信用しない人もいますからね。選択肢がある状態が理想だと思います。
市川先生
両方やればいい。自分たちの希望に沿った形で、社会のほうが形づくられていくようになると考えています。いずれは居住地にも縛られなくなるでしょう。普段は都心にいながら、週末は好きな郊外に住むといったデュアルライフが進む可能性があります。そうなったときに、町田市は選んでもらえるのか、そこを真剣に考えなくてはなりません。
市川宏雄 町田市未来づくり研究所所長
野田氏
都心へのアクセスの良さは、もう魅力にならないということです。
市川先生
いずれにしても、都市のあり方を変えるとは、社会のあり方を変えること。それを実現するには、仕組みや制度の改革も必要です。それこそが、われわれの目指す最終目標。この研究が、硬直した現状からの突破口の一つになればと期待しています。
(注)調査概要は、以下の通り。
調査対象:町田市、および東京から30~40㎞圏の所在する3つの自治体の市民
調査手法:インターネット調査法
調査対象者:20~74歳の男女個人(調査協力モニター)
サンプル数:4,141 サンプル
実施時期:2020年6月26日~2020年7月6日
市川 宏雄(イチカワ ヒロオ)
町田市未来づくり研究所 所長
明治大学 名誉教授
Ph.D.
野田 健太郎(ノダ ケンタロウ)
町田市未来づくり研究所 担当係長
町田市政策経営部企画政策課
北見 幸一(キタミ コウイチ)
東京都市大学 総合研究所 未来都市研究機構 都市マネジメント研究ユニット長
東京都市大学 都市生活学部 准教授
博士(経営学)
西山 敏樹(ニシヤマ トシキ)
東京都市大学 総合研究所 未来都市研究機構 ヒューマン・センタード・デザイン研究ユニット長
東京都市大学 都市生活学部 准教授
博士(政策・メディア)