未来都市研究機構主催の総研セミナーが10月29日(金)に開催されました。テーマは「空地の利用と未来のコミュニティ生成」です。
都市の中には、人口減少などの理由で空いた土地が増え続けています。一方で、その空地を有効活用し、コミュニティ形成につなげる活動も目立っています。今回のセミナーでは、そんな空地・空間を活用した今後のコミュニティ生成について、各専門家からそれぞれの観点で語られました。2つ目の事例講演には、東京都市大学都市生活学部 准教授 坂倉杏介氏が登壇。空地の利用とコミュニティ生成についてお話しいただきました。
都市のオープンスペースの可能性
私の専門はコミュニティマネジメントで、実践的にまちに出て、主に暮らしを向上させるための研究を行っています。東京ローカルプロジェクトや、地方のコミュニティデザインプロジェクトなど、全国各地でまちづくりを学生と一緒に展開している状況です。
ここ数年で、公園やオープンスペースのあり方は変化しています。例えば、東京の南池袋公園は遊具がなく芝生だけが広がる公園ですが、多くの人がシートを敷いて寛いでいる姿が見られます。このような屋外の芝生空間を上手に活用した全国のプロジェクトをいくつかご紹介します。
「HELLO GARDEN」(千葉市)
西千葉の売れ残った3区画分の土地に住民同士で集まり、暮らしの実験ができる場所にしていこうというプロジェクトです。
「みんなのひろば」(松山市)
コインパーキングとして使用されていた土地を活用し、芝生と土管を設置したコミュニティづくりの場です。
「わいわいコンテナ」(佐賀市)
シャッター街化している商店街近くの一角を芝生にして、住民が自由に寛げるという場所です。周辺環境に活気を与え、後に、ラーメン店が近隣に出店したようです。
「北加賀屋みんなの農園」(大阪府)
Studio Lの事例で、キッチン付きの農園をつくり、住民同士で集まろうというプロジェクトです。
「豊中あぐりプロジェクト事業」(豊中市)
高齢の男性のコミュニティ参加を促すためのプロジェクトです。畑仕事という役割をつくり、高齢男性の参加を促しました。
このように近年のコミュニティ生成においては、建物内だけでなく、屋外のオープンスペースをパブリックスペースにするという動きが徐々に見られています。私の研究室でも地元商店街を人が単に移動する場所ではなく、立ち止まって交流し、出会いをつくるような新しい空間に変えていこう、というプロジェクトを4年近くにわたって続けています。
また、毎年山形で学生と合宿を実施しており、一昨年は高齢化と孤立が進む町内会の状況を改善するためのプログラムを行いました。空いている土地を利用し、1日だけのイベントを開きました。お手紙で地元住民の方々をお誘いしたところ30人ほどが集まり、賑やかな時間となりました。その後、イベントで知り合った地元の人同士が飲み会を企画したり、新聞に取り上げられたりするなど予想外の反響を呼びました。1日だけの活動によって、それまで起きなかったことが起こり始めたという貴重な事例です。このようにオープンスペースや空地は大事な資源であり、これまでと違う使い方は大きな可能性があると捉えることができます。
「芝のはらっぱ」
「芝のはらっぱ」は未来都市研究機構の研究の一環でもあるプロジェクトで、自律的なコミュニティにおける都市マネジメントを検討・検証するものです。この「芝のはらっぱ」の背景には、私が慶應時代から携わってきた「芝の家」というプロジェクトがあります。これは地域の人が集まり自由に過ごせる場所で、幅広い世代が交流できる空間でしたが、建物の老朽化により取り壊すことになったのです。当初はコインパーキングとなる予定でしたが、オープンスペースを活用した新しい都市開発の実験といったさまざまな縁があり、地域の町会長などと一緒に始めたプロジェクトです。
“多くの人の手でつくる”をコンセプトとし、パーゴラなども自分たちで建て、芝生も多くの人の手で張るように意識しました。都市空間はトップダウン型でつくられがちですが、小さくても自分たちの力でつくり、主体となって切り開いていく意義を感じられました。今年の春から運用し、多くの人に利用してもらっています。
「芝のはらっぱ」活動で得られた考察
「芝のはらっぱ」がある地区は、港区でありながら昔ながらの路地が残り、さらにタワーマンションや戸建ても混在するエリアです。研究の一環として約700世帯に調査したところ、70%以上は「芝のはらっぱ」プロジェクトを知っていて、「子供が自由に楽しめる場所」「季節を感じられる場所」「災害の救護、復旧活動の拠点」といったニーズがあることが判明しました。今後はこれらのニーズに応えられるようにしていきたいですね。
実際に原っぱをつくってみるとカエルやトンボが訪れるなど、自然に触れられる出来事が次々と起こり始めました。上記のアンケートからは、地域に頼れる人や信頼できる人が意外と少ないことがわかりました。「芝のはらっぱ」が地域住民のつながりを向上させる場所になることも期待できます。さらに、新旧住民や地域内外の人たちがどのようにつながり、自律的なコミュニティを形成できるかという研究も予定しています。
また、実験的な研究として、この「芝のはらっぱ」は光ファイバーを敷いてWi-Fiが利用できるようになっているのですが、WEBカメラや土中センサなどを用いて「芝のはらっぱ」を多くの人が共同で管理するツールをつくるという計画も進めています。物理的に近くにいなくては行えないことは多々あり、町内会にいる人だけでは全然力が足りていないのが現状です。そのため、近所にいる人と遠くにいる人が、上手に力を合わせて管理する新たな仕組みを用意することで、都市の低未利用地を有効に活用していくマネジメントの方法を提案していきたいと考えています。
坂倉 杏介(サカクラ キョウスケ)
東京都市大学 都市生活学部 准教授