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IoTを支える基盤。ネットワーク&コンピューティングの研究と成果(前編)

未来都市 編集部2,296 views

コンピューティングインフラ基盤の運用管理が専門の塩本公平教授と、センサーネットワークが専門の柴田随道教授。そして、AIチップ設計が専門の瀬戸謙修講師に「IoT&情報通信技術研究ユニット」お話をお伺いました。
ユニットではこれまで、都市のIoTを支えるネットワークと、コンピュータによる情報処理の2つの研究に取り組んできました。さまざまなセンサーデータを収集するための集中処理型「クラウドコンピューティング」。そして、端末近くのサーバで、よりネットワーク負荷の軽い分散管理型のデータ処理を行う「エッジコンピューティング」。双方のアーキテクチャ(構築)とオペレーション(運用)が研究テーマとなりました。さらに、分析アプリケーションによって、人流分析やインフラの監視への応用を試みるなどをしています。以下7つの研究テーマの成果をご紹介します。

後編の記事はこちらからご覧ください。

塩本先生・柴田先生・瀬戸先生

(左)柴田随道教授 (中)塩本公平教授 (右)瀬戸謙修講師

クラウド・エッジコンピューティングの構築・運用研究を推進

テーマ1「ネットワーク管理用の学習アルゴリズム開発」

モバイル通信網の品質データ分析において、データ処理のための機械学習アルゴリズムを開発しました。基地局で生成される膨大なデータを機械学習で分析し、少量のデータからでも基地局の状態を分類する効果を実証実験で証明しました。
一方では、ネットワークのセキュリティ向上のための、ネットワーク侵入検知手法の研究に取り組んでいます。こちらの研究も、少数のデータでいかに学習を効率化させるかを追求し、機械学習(敵対的オートエンコーダを用いた半教師付き機械学習)で高い検出精度を実現しています。

テーマ2「モバイル通信のデータ量を予測する技術」

近年、通信データのやり取りはほとんどがスマートフォンなどのモバイル通信です。ユーザーは、さまざまな場所に移動しながら通信をし、トラフィックの需要予測が非常に困難になっています。そこで、対象エリアの人口がある程度予測しやすい前提で、人口の何割からトラフィックが発生しているかの関係性をモデル化しました。今回構築したベイジアンネットワークモデル(確率的に推論を行うグラフ表現手法)は、従来の手法より誤差の少ないトラフィック予測ができることを実証しました。

テーマ3「ブロックチェーンを用いた分散型個人情報提供サービスシステム」

ユーザーのプライバシー情報は、Googleなどのクラウド事業者に収集・管理されているのが現状です。つまり、自分自身の情報がどこでどう使われているかを追跡することができないのです。こうした制限を解決するために、ブロックチェーン技術に基づいたID(自己主権分散識別子)とアクセス制御の仕組み(ポリシー記述言語による自動アクセスポリシー制御)でプライバシー情報の保護・管理をするための基盤を開発しました。

IoTサービス創出のためのアーキテクチャを構築

テーマ4「NVMe over Fabricsを用いた計算機アーキテクチャ」

高速・並列のコンピューティング(計算機)と高速・大容量のストレージ(外部記憶装置)に分離したアーキテクチャ(基本設計)の性能を検証しました。データ収集・分析のための環境整備として、高速転送プロトコルNVMe over Fabrics規格に準拠したSAN(Storage Area Network)の構築を進めました。
研究の背景には、記憶装置へのデータ保存が、読み書きの遅いハードディスクから高速処理が可能な半導体メモリのSSDへと代替が進んだことがあります。メモリの階層が変化したことで、高速なメモリアクセスのSSDの性能を生かしきるコンピューティングを見据え、分離型のアーキテクチャに挑戦しました。実機での評価では、100ギガビットの通信規格を持つイーサネットで介した高速ネットワークで相互接続。ネットワークの存在を意識させない速度を発揮することで、ストレージの性能をフルに発揮するアーキテクチャを実証しています。

テーマ5「確率微分方程式モデルを用いたプロジェクト管理」

ソフトウェアの開発管理工程においては、バグの発生件数と時系列を確率微分方程式に基づいてモデル化ができます。オープンソースプロジェクトの工数管理のために、確率微分方程式を用いたモデルの知見をまとめて、査読付きジャーナル論文、査読付き国際会議論文の発表を行いました。

対談の様子

人流分析やインフラ監視などの分析アプリケーションの開発

テーマ6「人流計測システムおよび河川監視システムの経済化」

WiFiパケットを利用した人流計測システム
導入に経費のかさむ一般の人流計測システムに代わり、安価なコンピュータ(RaspberryPi)を使ったWiFiパケット計測用のアクセスポイントを試作しました。取得したスマートフォンのMACアドレス(識別子)と電波強度をもとに、キャンパス内の人流計測が可能となります。蓄積したデータから、人がどこからどのように移動したかの軌跡を分析することで、人流分析の結果を都市計画等へ応用する取り組みを始めています。

河川監視システム
小型コンピュータに河川水位を計測する超音波センサーを装着した、低価格の河川監視システムを試作しました。データ収集・蓄積・可視化部にはオープンソースソフトウェアを利用し、実際のフィールドでの実証実験を今後実施する予定です。

より効率的に給電を行うワイヤレス伝送技術を新たに提案

テーマ7「ワイヤレス給電」

サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実世界)を融合させた超スマート社会“Society5.0” (第5期科学技術基本計画)。内閣府が2030年代の実現に向けて提唱するIoTのトリリオンノード(1兆個のデバイス)では、生活空間に設置するIoT端末の保守運用が課題となります。無線給電は、従来必要だった配線工事や電池交換コストを削減し、ネットワークの拡大に貢献する重要な技術と言えます。研究では、センサーへの無線による電源確保に着目し、給電および充電の簡易化を図っています。安定的な電力供給については、1メートル以上の距離を隔てて電力伝送を行える磁界共鳴型結合回路を用い、給電効率を最大化するネットワーク制御を実装しました。

塩本 公平(シオモト コウヘイ)

所属:情報工学部 知能情報工学科
職名:教授
出身大学院:大阪大学 修士 (情報工学研究科) 1989年 修了
取得学位:博士(工学) 大阪大学 1998年
研究分野:計算機システム・ネットワーク通信・ネットワーク工学
キーワード:インターネット、クラウド、トラフィック、アルゴリズム,機械学習

柴田 随道(シバタ ツグミチ)

所属:理工学部 電気電子通信工学科
職名:教授
出身大学院:東京大学 修士 (工学系研究科) 1985年 修了
取得学位:博士(工学) 東京大学
研究分野:電子デバイス・電子機器
キーワード:集積化システム工学、集積回路、信号処理、センサネットワーク

瀬戸 謙修(セト ケンシュウ)

所属:理工学部 電気電子通信工学科
職名:講師
出身大学院:東京大学 博士 (工学系研究科) 2004年 修了
取得学位:博士(工学) 東京大学 2004年
研究分野:電子デバイス、電子機器
キーワード:半導体、CAD、設計自動化、システムレベル設計

ライター:未来都市 編集部

東京都市大学 総合研究所 未来都市編集部です。未来の都市やまちづくりに興味・関心を持つ方に向けて、鋭意取材中!