エイジングシティー問題を危機として捉えるのではなく、持続可能で魅力的な成熟都市へと発展するための好機として捉え、東京圏の国際協力の維持・発展のみならず居住者の生活の質の向上に努める研究を続けている都市大。
前回は情報領域の分野で、共同研究をされている三人のプロフェッショナルに、情報領域における研究の概要や背景などをお伺いしました。
続いては、リアルタイムに集められるビッグデータの特性や個人データの安全性についてのお話を伺います。
東京都市大学:対談プロフェッショナル
今井 龍一 准教授 ( 工学部 都市工学科 )
岡田 啓 准教授 ( 環境学部 環境マネジメント学科 )
林 和眞 講師 ( 都市生活学部 都市生活学科 )
「リアルタイムに対策がとれるのがビッグデータの肝」
―――林講師
今までの社会調査は紙ベースが中心で、家庭に調査用紙を配布し、回収し、それから集計といった流れで行われていました。最終結果が出るまでにかなりの時間を要していたので、一旦集められたデータをまとめてそれを生かして政策へ反映させるまでにタイムラグが生じていました。しかし、ビッグデータを利用できるようになると、リアルタイムに対策をとることができるんです。
つまり「街で何が起きているのか?誰が困っているのか?」といったことがすぐに分かり、「どういう対策を練れば良いのか?」といったことが、随時分かるのです。今井先生の研究は、交通の側面からビッグデータの研究を進められています。
筆者:交通ビッグデータというと、Googleの情報収集システムに似ているのかなとイメージできますが、それとは何か違うのでしょうか?
―――今井准教授
似ていると言えば似ていますが、Googleはいわゆるコンシューマーサービスとしても提供されています。僕たちの研究はどちらかというと社会インフラの管理者、事業者や行政といった都市経営を担う側で、街づくりの一環として居住者に役立てるもの。国土交通省や東京都であったり鉄道やバスの公共交通事業者であったり、街づくりのためのシステム構築です。
今この街がどういう状態なのか、どれだけの人が今ここにいるのか、どんな状況なのか…。そういったことを知るために、さきほど林先生のお話にあったような統計調査が行われるわけです。街づくりとなると男女別・年齢別など、細かい階層別の調査を行う必要がありますから一筋縄ではいきません。
ちょうど2018年は、東京都市圏にてパーソントリップ調査が実施されますが、この調査は10年間で一度の頻度です。調査結果は、精査して役に立てるまでに調査後さらに2年ほどかかってしまうこともあります。その後、次の調査まで10年間更新されないため、都市の現状を毎年把握するという鮮度の点で課題があります。
そこで私たちが着目したのが、24時間365日取得可能な交通ビッグデータです。ビッグデータは携帯電話、カーナビ、交通系ICカード、Wi-Fi、SNSなどによって鮮度の高いデータが大量に集められています。元々は全く違う目的で集計されているデータですが、これをまとめて人の動きとして捉えるような加工がこれから先は可能になるんです。
例えば、携帯電話は概ね1時間に1度は基地局と通信されています。基地局ではその瞬間、その周辺に携帯電話が何台あるのかが分かるので、つまりどれだけの人がそこに集まっているのかが分かるのです。そこからさらに顧客(個人)情報を照らし合わせれば、男女年齢階層なども分かります。
「どこまで個人情報が集められているのか」
筆者:調査には役立ちそうですが、プライバシーはどこまで守られるのか不安でもありますね。
―――今井准教授
まず、事業者から提供されている交通ビッグデータは、オプトインといって全利用者から許諾を得ています。そして、個人情報保護やプライバシーへの対策を講じられていますので、個人を特定できないようになっています。また、総務省や消費者庁では、現状に即した個人情報やプライバシーに係わる制度に改正したり、ガイドラインを発行されたりしています。
例えば、人口密度の高いエリアで、100mの範囲内で携帯電話が100台あるとします。女性が50人・男性が50人とし、そこから年齢別に情報が集められても個人の判別に繋げることはできません。
しかし地方などで、例えば500mの範囲内で家が1軒しかなくて、そこに住んでいる家族が一人しかいないとなればデータは公開されません。人口密度が低いところなど、男女年齢階層別で人物を特定できることがある場合などにおいては保護されるんです。個人を特定しようという目的ではないので、このようにプライバシーを侵害しないように処理されています。
筆者:なるほど。それを聞いて安心しました。
―――今井准教授
これから様々な交通ビッグデータを組み合わせた分析が推進されることが予想されます。その情勢にあわせて制度の再設計などが必要となってくるのではないかと思います。
現行は合法的だけれど、これから先はどうなのかという視点の見直しの必要もあると思いますね。
交通ビッグデータを組み合わせて活用していくにあたっては、技術・制度・運用の3つの足並みを揃えてやっていかねばなりません。技術面においては私たちが、制度面は岡田先生に、最後の運用面についてはこれからの産業界や行政の方々にご協力頂きたいと考えています。
私たち個人から集められるビッグデータですが、安全面も確保されていることが分かりましたね。
次回は、多様な情報を繋ぐための制度面や運用面について伺います。