健康領域ユニットは、「健康」をキーワードにさまざまな研究を行っているチームです。2019年2月19日、これまでの活動状況の振り返りや今後の展望をテーマに、ユニットメンバーによる座談会が開かれました。その様子を3回にわたってレポートします。
第1回目は、健康領域ユニットの目的と今期の活動内容についてです。
左から久保教授、早坂教授、末繁講師、柴田教授
未来都市研究機構:健康領域ユニットメンバー
柴田 随道 教授(知識工学部)
早坂 信哉 教授(人間科学部)
久保 哲也 教授(共通教育部)
末繁 雄一 講師(都市生活学部)
柴田教授
健康領域ユニットは学内の横断的プロジェクトで集合したチームで、メンバーそれぞれ専門が異なります。私は知識工学やエンジニアリングが専門です。本ユニットでは、センシング技術の提供やデータ分析などを行っています。
末繁講師
私は都市計画の専門家として、都市生活学部で街での人々の行動について研究しています。
本ユニットで健康をテーマにエイジングシティや人々の生活について考えると、たとえば高齢者や体の不自由な方、体力のない方への支援方法としてインターネットやIoTの活用が挙げられます。技術的な解決策を用いれば、家に居ながら買い物ができるなど外へ出なくても生活は成り立つでしょう。しかし果たしてそれだけで幸せといえるでしょうか。豊かなライフスタイルの実現には、外に出るという時間の使い方や人と会うという体験も必要です。ただし、健康に不安のある人は外出へのハードルが高いのも事実。そこに注目して、誰もが過ごしやすい社会とはどんなものかを日々探っています。
柴田教授
健康領域ユニットで先生方と一緒にトライしようとしているのは、日本が抱える社会的課題に対する解決策を見つけて、実際に展開していくことです。具体的には、子育て世代や高齢者が街中に出たときに有益な情報を自由に取得・共有できて、行動を支援してあげられるようなシステムの構築に取り組んでいます。
そのひとつとして昨年実施したのは、街を活性化するためのプロジェクト。街づくりの専門家である末繁先生が中心となって、自由が丘をフィールドに、センサーを使った実証実験を行いました。
末繁講師
自由が丘で昨年実施した実証実験は、赤ちゃん連れの来街者に着目しました。赤ちゃんは「お腹が空いた」、「おむつを替えてほしい」といった生理的欲求を解決するために泣いて知らせます。親はそれを敏感に感じ取ってお世話をしなければなりません。しかし、授乳スペースやおむつを替えるためのトイレを探すのはなかなか難しく、乳幼児を連れての街歩きには不安がつきまといます。この不安を解消するために行ったのが自由が丘プロジェクトです。
実験では、自由が丘にある既存の授乳室2カ所と、この実験のために設置した仮設の授乳スペース3カ所のドアにセンサーをつけて、スマートフォンで空き状況が分かるようなシステムを作りました。利用者には自由に使ってもらい、使用後にはアンケートを実施して、どれくらい街歩きを楽しんだか(回遊行動)、このシステムを利用して街の利便性がどのくらい上がったかなども調査。今はその結果をまとめているところです。
末繁 雄一 講師
末繁講師
街を訪れる人の目的は多種多様。食事に来た、人と会いに来た、お休みの日に散歩がてらゆっくり過ごしに訪れたなど人によってさまざまですが、実験を通じて分かったのは、近所からちょっと買い物に来た人よりも、自由が丘の街に目的を持ってわざわざ遊びに来た人ほど授乳室のニーズが高いということです。自由が丘は魅力的な街ですが、子育て世代にとって授乳室やトイレを見つけやすいかどうかは、外出先の決定に深く関わってきます。不安要素のある街には足を運ぶのをためらうことが考えられますし、現状に満足してあぐらをかいていたのでは、集客の機会を逃すことにもつながりかねません。
柴田教授
自由が丘は大きな商店街を持つ街で、渋谷や二子玉川のような大規模な再開発が行われていませんが、その割には末繁先生の研究でも分かるように、ベビーカーで街中を歩く人が多いのも事実。駅の周辺を見ていてもあちこちで子育て世代を見かけるので、授乳室の潜在的なニーズがあることが分かります。さらに今回の実験では、街中に設置した仮設の授乳室を順番待ちが発生するほど使っていただけたと聞いています。これは「街歩きをしている最中に使いたい」というニーズが高いことの証明になりそうです。
柴田 随道 教授
末繁講師
実は自由が丘に住む人たちの中には授乳室整備の必要性に懐疑的な人もいましたが、今回の実験で多くの子育て世代が授乳室を必要としていることが分かりました。自由が丘では、街中に授乳室が点在していないと不安を覚えるようです。実験結果を目にして、住人にとっては見えていなかった課題に焦点を当てることができ、街の集客を見直すきっかけにもなったのではないかと感じています。また技術面においても、センサーはうまく機能していましたし、システムもほとんど完成していました。ユーザーへのサービスの提供もできそうです。
末繁講師
今回は一時的な実験でしたが、柴田先生が手がけるセンサーシステムを応用して、さらに街の利便性につなげられないかと考えています。大型の商業施設が少なく、小さな個店が立ち並ぶ自由が丘のような街でも、ショッピングセンターのように授乳室やトイレを整備して、その空き状況が分かるようなシステムを作れば、子育て世代が活発に出歩くことができて街に賑わいが生まれます。こうした取り組みは、他の地域のまちおこしや街の活性化にもつなげられるでしょう。子育て世代のみならず、街に来た人が幸せになれる環境を実現できるはずです。
久保教授
もうひとつ今期行っていたのは、センサーによる生体情報の取得です。私は共通教育部で体育を教えています。専門は剣道で、当初はモーションピクチャーなどを利用しながら、技能の上位者と下位者では動きにどのような違いがあるのか、一流選手はどのように動いているのかといった動作分析を行っていました。最近では研究内容を生理学に移して、高温多湿の日本で注目されている「熱中症対策」について研究しています。
たとえば剣道では、頭部に面をつけているのでこまめに水分を取りづらい、胴体には打たれてもケガのないように厚い剣道着をつけているので熱放散しにくいといった問題があります。的確に熱中症対策を行えるように、柴田先生が開発に関わった「hitoe」というウエアラブルセンサーを使用して、生理情報の取得を続けています。
久保 哲也 教授
久保教授
「hitoe」で調査しているのは、稽古中の水分の摂取の有無で血液生態にどのような影響があるかなど。まさに健康領域の分野なので力を入れて取り組んでいますが、やはり人間をセンシングしてデータを分析し法則を見出すことは、人それぞれの個性もあるため難しいものだと感じています。ただ早坂先生がメンバーに参加したことで、生体情報の精査など、専門的な目線でアドバイスをいただきつつ、研究を進められるのではないかと期待しています。
早坂教授
熟練者の動きを把握することは大事です。スポーツだけでなく医療や介護、福祉の分野でも、たとえば腰がいたくならない抱え方とか、ちょっとしたことでもベテランから学べるはず。熟練者の動きのデータがあれば、さまざまなことに利用できます。特殊なことではなく、一般的なことにも活用できるでしょう。デバイスによる生体情報の取得は、今後も積極的に進めていきたいですね。
早坂 信哉 教授
柴田 随道(シバタ ツグミチ)
所属:知識工学部 情報通信工学科
職名:教授
出身大学院:東京大学 修士 (工学系研究科) 1985年 修了
出身学校:東京大学 (工学部) 1983 年卒業
取得学位:博士(工学) 東京大学
研究分野:電子デバイス・電子機器
研究分野/キーワード:集積化システム工学、集積回路、信号処理、センサネットワーク
早坂 信哉(ハヤサカ シンヤ)
所属:人間科学部 児童学科
職名:教授
出身大学院:自治医科大学博士 (医学研究科) 2002年 修了
出身学校:自治医科大学 医学部 1993年 卒業
取得学位:博士(医学) 自治医科大学 2002年
研究分野:公衆衛生学・健康科学
研究分野/キーワード:医学、公衆衛生、疫学、小児保健、入浴医学、温泉医学、地域医療、地域保健
久保 哲也(クボ テツヤ)
所属:共通教育部 人文・社会科学系
職名:教授
出身大学院:筑波大学 修士 (体育研究科) 1997年 修了、昭和大学 博士 (医学研究科) 2012年 修了
出身学校:筑波大学 (体育専門学群) 1994年 卒業
取得学位:修士(体育学) 筑波大学 1997年、博士(医学) 昭和大学 2012年
研究分野:スポーツ科学、生理学一般
研究分野/キーワード:剣道、コーチ学、生理学
末繁 雄一(スエシゲ ユウイチ)
所属:都市生活学部 都市生活学科
職名:講師
出身大学院:熊本大学 博士 (自然科学研究科) 2007年 修了、熊本大学 修士 (自然科学研究科) 2002年 修了
出身学校:熊本大学 (工学部) 2000年 卒業
取得学位:博士(工学) 熊本大学 2007年
研究分野:都市計画・建築計画
研究分野/キーワード:都市計画、建築計画