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アーバン・デジタル・トランスフォーメーション(UDX)の実現にむけての現状と課題

未来都市編集部215 views

東京都市大学は今年度より、新たに着任した未来都市研究機構長の下、「アーバン・デジタル・トランスフォーメーション(UDX)」の実現を目指していく。都市大の都市研究は研究だけにとどまらず、社会実装し、実際に世の中で使われるものにすることを最終ゴールとしている。3年目となる今期は、人間中心設計およびデータ収集と分析の観点から、各領域の専門家がそれぞれの研究を深め、これまでの集大成として研究成果を発表していく方針だ。

2019年7月25日に開催した未来都市研究機構セミナーの後半には、5領域それぞれのユニットリーダーが登壇し、「UDXの実現に向けての現状と課題」をテーマにパネルディスカッションを行った。「インフラ」「情報」「生活」「健康」「環境」の各領域におけるこれまでの研究成果と専門的知見から見えてきた課題についてレポートする。

7月25日セミナーの様子

■ファシリテーター
機構長 葉村真樹 教授

■パネリスト
情報領域   今井龍一 准教授(法政大学)
インフラ領域 関屋英彦 准教授
健康領域   柴田随道 教授
生活領域   西山敏樹 准教授
環境領域   飯島健太郎 教授

本レポートではパネルディスカッションに基づき、過去2年間の研究を簡単に振り返った後、現時点で想定される課題や今年度実現できそうなアウトプットについて紹介する。

各領域が推進してきたこれまでの研究内容と成果

情報領域

情報領域  今井龍一 准教授

都市は老朽化し、人も老いていく流れの中、スマートにエイジングしていくにはどうしていくべきか。日々の生活の中にはまだまだ潜在的な課題が埋もれている。その課題を発掘するため、本ユニットではスマートフォンや交通系ICカード、人流センサー、物体検出といったセンシング技術を用いて、都市活動に関するビッグデータの取得および分析を進めてきた。データを加工、分析することで、ヒト、モノ、コトの動きや、都市におけるハード面の経年劣化なども見えてきた。
コンパクトシティが注目される中、短距離移動(トリップ)データに対するニーズは高まっている。しかし現在の統計調査等でそれを把握することは難しい。そこで駅を中心とした1~2km圏内にフォーカスし、スマホアプリやWi-Fiパケットセンサなどを用いて常時観測する方法を検証した。その結果、都市の中における人の流動が、ある程度推測できそうだということがわかってきた。常時観測の方法を確立できれば、インフラの整備やプランニングの基本データとしても使える。その道筋が見えてきた。

インフラ領域

インフラ領域 関屋英彦 准教授

人やモノが老化しているのと同時に、道路、トンネルといった交通インフラの老朽化もどんどん進んでいる。本ユニットでは交通インフラをターゲットに、センサーを用いて劣化の度合いを把握するための研究に取り組んできた。具体的には、橋梁やトンネルにセンサーを取り付けて神経を持たせ、取得したデータを集約し、痛みを発見するシステムを構築した。既に公的機関や民間企業と協力し、実証実験を重ねている。
交通インフラを人間化するメリットは大きい。橋梁においては通常時損傷の有無や、交通量(重さや台数)が与えるダメージの測定、さらには震災などの災害時に橋梁がどの程度損壊しているかを遠隔地でも判断できるようになる。トンネルでも同様に、健全度や異常を検知することができる。
こういったセンサーシステムを使うにはパワーが必要だ。そのためソーラー発電や振動発電といった電力に関する研究にも取り組んでいる。通信機能を持ったセンサーに、ソーラーパネルなどで電力を継続して補うことができれば、メンテナンス不要で、半永久的にデータを大学の研究室などに飛ばすことも可能だ。

健康領域

健康領域 柴田随道 教授

健康的に弱者にあたる人や負担を抱える人でも、街に出てアクティブに動けるように、IoTによって行動支援する方法を研究している。2年前には子育て世代と高齢者を対象とした1,000人規模のアンケートで、それぞれが求めるニーズを調査。この結果に基づき、昨年度までは子育て世代をフォーカスして、自由ヶ丘をフィールドとした実証実験を行った。
自由ヶ丘は毎日100組ほどのベビーカーを引いた人が乗降している。ベビーカーで街に出る子育て世代が求めているのは、授乳室やおむつ替えのできるトイレ、休憩所など。そこで商店街にある既存の授乳室に加え仮設の施設を設置して、利便性を高めると同時に、出入り口にセンサーを取り付けて利用者が空き状況を確認できるようなスマホアプリを構築した。温度や湿度などもモニタリングできるような仕掛けを作り、そのデータはインターネットを通して大学に集約。また利用者のアンケートから、システムの有効性も確認できた。
このほか、高齢者を屋内で見守るためのセンシング技術の研究も行ってきた。

生活領域

生活領域 西山敏樹 准教授

生活領域では、都市生活の実態を探るため、都市生活者約1万人に対するアンケート調査を実施。都市生活に不満を持つ人の自由回答をテキストマイニングしたところ、特に不満を感じている部分が見えてきた。多いのは、交通の不便さや店・商業施設の少なさ、税・物価の高さといった買い物に対するもので、買い物難民が都市生活のシーンに増えていることがわかった。
そこで買い物支援を行うための研究に取り組んできた。今、実証実験を進めているのは、スマホなどでQRコードを読み込み、タップするだけで野菜を購入できるといったシステム。デジタル画面が苦手な高齢者でもなじみやすいように、チラシを見ているかのようなアナログ的要素を残したインターフェースも実現した。
このシステムは消費者の買い物を支援するだけでなく、野菜などの生産者や直売所をも助けられるような、農都共生を推進できるシステムとしても機能している。

環境領域

環境領域 飯島健太郎 教授

社会や経済を支える環境が持続的に存在しなければ、社会も経済も持続することは難しい。環境領域では、自然環境との共存によりサステナブルな社会を実現するため、グリーンインフラをキーワードに研究を進めてきた。グリーンインフラを適切にマネジメントできれば、ヒートアイランドや土壌汚染をはじめとした都市環境の改善、防災・減災、健康増進、ストレスの緩和などにつなげることができる。
この考えに基づき4つの地域でケーススタディを実施した。臨海部の重金属汚染に関する研究では、ファイトレメディエーションに最適な植物を調査。洪水を起こす危険のある都市河川流域の研究では、グリーンインフラの立地を分類し、緑地の雨水保持性などを評価した。等々力渓谷における研究では、水質や生物のほか地域の土地利用が健全であるかを評価。また建築環境とグリーンカーテンの研究では、温熱環境緩和効果などを調査した。

これからの展望と、UDXの実現を目指す上で想定される課題

今年度はこれまでの研究を踏まえ、その成果をオープンにしていくフェーズだ。社会実装を考えたときに実現性の高いユニットから順に、今後の展望と各リーダーの専門的知見に基づく考察を紹介する。

情報領域

情報領域では、人の動きを中心とした研究のほかに、ハード面の劣化予測についても研究している。今年度はこの両方を組み合わせた常時観測、分析にチャレンジしていく。常時観測するための手法も、社会に実装できることが条件だ。そのため、地方公共団体やエリアマネジメントに携わる事業者との連携を強化し、意見交換や実証実験の計画立案、実施に至るまでトータルに関わり、実現性を高めることを目指す。またコスト面にも着目して、官民連携、産官学連携による常時観測のための実施体制も検討していく。

情報領域  今井龍一 准教授

現時点での課題は制度面の壁。日本は良くも悪くも制度設計が充実しており、何かをやろうとするときになかなか先に進まないことが多い。壁に直面したとき、それに関わる人に理解してもらうにはどうしたらいいかを考えておく必要がある。またビッグデータの利用にあたっては、個人や社会からコンセンサスを得なければならない。同意を得るための進め方を模索することも、今後の研究の肝になるだろう。

インフラ領域

今年度は、これまで開発してきたシステムを長期的に現場実装して、本当に役立つか、正しく作動するかを検証する。またコンピュータシミュレーションで、実際に起きている現象をきちんと捉えられているかどうかも検証していく。さらにインフラの維持管理だけでなく防災にもフォーカスして、高潮、高波、風害など沿岸災害に関する数値解析や事例の調査分析を進めていく。

インフラ領域 関屋英彦 准教授

センサーシステムが持つ課題は、集約したデータを人間が評価する点。現時点ではセンサーで取得したデータを大学の研究室などに飛ばすところまでは構築できているが、データに対する判断は人間が行うしかない。この点を除けば、今年度中に常時インフラの健全度を評価できるシステムを完成させ、研究成果とすることが見込める。ただし現実的にはデータの評価はAIが行うべきだ。どうAIに置き換えるかが今後の課題として残されている。

健康領域

健康領域ではターゲットとして子育て世代と高齢者の2つを挙げているが、今期は特に高齢者にフォーカスを当てていく方針。ニーズの高い、高齢者の見守りに関する研究を進め、3年間の集大成として締めくくりたいと考えている。またセンシング対象をモノや環境、施設から人へと移し、人自体のセンシングにもトライする。これまでもウエアラブルセンサを使って生体情報などを取得してきたが、今期は情報領域とも協力して、特に屋内での位置情報の取得を強化していきたい。UDXに関しては、ネットワークを介した空間的なつながりや時空間を超えるような使い方ができないか模索し、実現性を探りたい。

健康領域 柴田随道 教授

現時点での課題は、屋内での高齢者の動きをどのように観測し、精度を高めていくか。屋内であるがゆえに電波強度が場所に依存して、正しい位置情報を取りにくいこともある。そのため機械学習システムの構築が必要であると考えている。またセンサフュージョンも重要な技術である。複数のセンサー情報を組み合わせて、これまで見えなかったものを発見することも中長期的な課題として掲げている。

生活領域

実証実験を重ねてきた買い物支援システムを、多くの人に使ってもらうことが今期の目標だ。そのひとつとして、高齢化率の高い団地をターゲットに本システムの普及を目指すことを考えている。
さらに踏み込んだ買い物支援の形を実現するため、世田谷区で実験中の「MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)」についての研究も引き続き進めている。現状のMaaSでは、スマホでの予約が困難など利用する人にとっての付加価値が足りていない。交通手段としてのMaaSに、例えば雨天時に出掛けるのが面倒なときに欲しい商品を運んできてくれる機能を持たせれば、より便利になるはずだ。買い物(商品発注)と人の移動を結び付けたサービスは、郊外のエイジングシティなどで生きてくる可能性がある。今年はこのような付加価値の高い買い物支援システムを実際に試していく。

生活領域 西山敏樹 准教授

課題は、スマートフォンベースの研究は結局インターフェースの問題に行き着くこと。買い物支援に限らず、使える人がいる一方で、取り残される人が必ず出てくる。アナログのテイストをデジタルに埋め込むのもひとつの手だが、失敗する可能性はある。それを解決するには、検証と改善を繰り返しながら人間中心設計を突き詰めていくしかない。それが付加価値となってUDXを実現するカギになるだろう。

環境領域

グリーンインフラはこれまで公益的な位置づけであったが、昨今は公益性+収益事業に変換していくことが求められている。これまで補助金頼みのもの、CSRや広報活動の一環のように扱われてきたものが、収益事業に変わってきた。これに伴い、自治体や企業が事業を進める際に、環境にどれだけ貢献できるかを明確に示さなければならなくなってきた。それだけグリーンインフラに対する重要性が高まっているといえる。

環境領域 飯島健太郎 教授

環境領域では、これまで進めてきた4つのケーススタディについての研究を続けると共に、それぞれの課題に応じた解決策(解)を導きだすことを今期の目標としている。自治体や企業が課題解決に向けて何かを始める際に、われわれが提案する研究成果が役立つかもしれない。
またグリーンインフラにまつわる法律について、どう解釈しどう実現していけばいいのかと困っている自治体や事業者も多い。現在の課題はそれに対する明確な回答が用意できていないことだ。相談に訪れる自治体や事業者に的確にアドバイスできるよう、事例集や考え方のマニュアルなども構築していきたい。

未来都市研究機構はさらに力を入れて、社会実装型の研究成果をあげることを目指している。日本のエイジングシティ問題を解決する、UDXの実現に期待したい。

ライター:未来都市編集部

東京都市大学 総合研究所 未来都市編集部です。未来の都市やまちづくりに興味・関心を持つ方に向けて、鋭意取材中!