私たちは1人1台の携帯電話を持ち、GPS機能などによって常に情報を共有できる状態で暮らしています。携帯電話だけでなく、交通系ICカードなど様々な情報技術によってもビッグデータが集められているのです。極論で言えば、1人ひとりがセンサーとなっているとも捉えることができますね。
多様な情報を繋いでいくには、社会からのコンセンサス(合意)も重要で、技術・制度・運用の3つの足並みを揃えることが大切とのことでした。今回は、制度面・運用面についてのお話を伺います。
東京都市大学:対談プロフェッショナル
今井 龍一 准教授 ( 工学部 都市工学科 )
岡田 啓 准教授 ( 環境学部 環境マネジメント学科 )
林 和眞 講師 ( 都市生活学部 都市生活学科 )
「勘所は多様な交通データの特徴を活かして組み合わせること」
―――岡田准教授
これまで交通を中心に技術面や取り扱う情報のプライバシーについて説明してきましたが、目に見えない制度には「社会からのコンセンサス」の問題などがあります。
まず認識して欲しいのが、これらは個人に留まる話ではないということです。これから先さらに高齢者が増えると、(痴呆など)認知ができない、自分では責任が取り切れない人ももっと増えてきます。しかし、そういった人自身も自活的に動かないと、全員がおんぶにだっこの高齢化社会では世の中が回らなくなってしまうでしょう。そういった点を考えるとき、技術に加え、制度や運用面についてどこまで社会的に認められていくかのバランスを考えるのが必要となってきます。
これは私の試験的な案なのですが…。「どこまでわざとプライバシーを守ることを弱め、自らの情報を周りに広げてよいのか?」といった点を、もっと追求していくのも必要かなと思案しています。
困っている人は、外に対して「私、困っています!」と広めないと周りが助けられない。ある程度プライバシーをオープンにしないと助けようがないのです。行政がどこまで、また周りの住民がどこまでサポートするのかを考えるときにこういった交通ビッグデータの特徴を活かせるのではないかと考えています。
―――林講師
そうですね。TwitterやSNSで、自分が今どこにいて、どんな助けを求めているのかを発信するなどは必要ですね。
今、高齢者に挙げられる問題のひとつに、“個”になりすぎていることがあるんですね。例えば孤独死だとか。そういう意味でセーフティーネットを繋ぐような拡大の仕方が必要になってくると思います。
ビッグデータを、生活・健康・インフラ・環境といった他の領域とどうタイアップして繋いでいくのかが大切なポイントです。
―――今井准教授
おっしゃる通りですね。私の場合、高齢者ではないケースですが、個人情報保護法のせいで一人暮らしの同僚が亡くなった悲しい経験があります。まだ私が20代の頃の話です。しばらく連絡がつかなくなったので、家で倒れているのではないだろうかと住まいを訪ねたのですが、鍵を開けて貰おうにも親族の許可なしで鍵は開けることができないというプライバシーの問題があり、結局、発見されたときにはもう手遅れでした。
最近は、高齢者の方や体の不自由な方などでは「個人情報を保護してくれなくて良い」と、いった希望をされる方がいることも調査で分かっています。局面に応じて、柔軟に情報をオープンすることが大切になってくると思います。
これから子々孫々、未来の若者・孫たちも連なって幸せになっていくことを考えたとき、人の高齢化の問題だけでなく街のエイジング対策・老朽化対策も永遠のテーマになります。ハードとソフトの両方を同時に対策する必要があるでしょう。インフラ面では都市構造や地形を踏まえ、特に高齢者の回遊特性など、潜在する需要を掴んでいかなければなりません。
前回お話した通り、統計調査は質が良くても10年に1回しか実施できないなどで鮮度に課題があるので、今、我々の研究している交通データセットが活きてくるのです。24時間365日トラッキングしているので、動き・対流・総量などがわかるようになっています。どこから出発して、どこから移動したのか動きを読むことができるんです。人口や流動の総量がわかるので、災害時の帰宅困難者の算出など、即座に活用されたりもしています。
しかし、今の交通データは横断的に集められている情報なので交通手段別に分解することができていません。現在、わたしたちは産官学連携で、様々な機関に協力をお願いして研究をすすめています。各機関の保有データを融合し、未来に向けて、スマートエイジングシティー創りとして、相互作用・交流による発展を期待しています。
―――林講師
私のデータ分析は交通だけではなく、交流人口の分析も行っています。これはある地域に行き来している人数の分析で、例えば仕事に来ている・遊びに来ているなどの居住者以外の人口の流れのことです。
これは地方創生の流れなのですが、地域経済活性化の取り組みとして、地方公共団体ではこれらのデータをまず始めに知らなければ観光対策を練ることはできません。これらの経済や社会的な分野での研究と、今井先生が主にされている交通・移動の分野と組み合わせると、我々の研究は更にパワフルなツールに変わると信じています。
三編に渡って、3名のプロフェッショナルによるシニアライフマーケテイングにおける情報領域での取り組みをお伝えしてきました。
都市研究の都市大。この大学の取り組みがいかに居住者の立場にたって行われ、全国民の役に立つものとして研究をされているのか、近い将来私たちの生活の中で実感できるときが来るはずでしょう。