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未来都市における入浴施設の役割とは

未来都市編集部5,986 views

医学研究者の早坂教授は、自治医科大学医学部卒業後、地域医療に従事。浜松医科大学准教授、大東文化大学教授などを経て、2015年より東京都市大学人間科学部教授を務めています。今回は、早坂教授に「未来都市計画における健康」というテーマで入浴施設の役割や都市においてお風呂がもたらす社会的効果についてお伺いしました。

早坂信哉教授

「銭湯などを活用し健康促進や高齢者の見守りに使えれば」

私の研究におけるキーワードとして主に挙げられるのは、風呂と温泉と健康。今回は未来都市計画の中でのお風呂ということですが、都市での入浴施設というと、家の中か外か、お風呂か温泉かでも違います。あとは銭湯などの活用ですね。都市も地方も関係なく、人が住んでいれば健康は関係のある話です。健康を維持するツールのひとつとして、日本特有の入浴習慣があります。場所によって温泉もありますね。これらを活用して健康の維持や健康寿命の延伸、高齢者の見守りにも活用できないかと模索しています。近頃では高齢化が進み、独り暮らしのお年寄りが増えてきています。デイサービスやデイケアの手前で、もともと都市にある入浴施設を利用し、浴場を通して健康づくりができるといいですね。

家のお風呂と銭湯との違いは、浴槽の大きさや空間の広さにあります。リラックス度が違いますし、高齢者は自宅で一人でお風呂に入るより他人の目がある方が安心ですよね。例えば一人暮らしのお年寄りの、外出したいというアクティビティを高めることで、介護に入る手前で介護予防に役に立ちます。銭湯に毎日通う常連さんが「そういえばここ2、3日来ないよねって」いう話になり尋ねると、寝込んでいて事なきを得たという話も聞きます。地域での見守りがあるということですね。

早坂信哉教授

「温泉地と連携して実験データを集めているところです」

今やっている研究内容のひとつに、温泉地との連携があります。温泉地でいえば熱海市と連携し、熱海市の住民の普段の温泉の使い方と、健康状態の関連を研究しています。私が以前浜松医大にいた関係で、熱海市とはお付き合いがありました。熱海市の協力で、特定健診と関連づけてやっています。

これまで発表した内容でいえば、週に一回以上温泉を利用されている方は悪玉コレステロールが低く、善玉コレステロールが高めであるといったことも分かってきました。以前から温泉はコレステロールを下げるのではと言われてはいましたが、一回限りの実験ではなく、ここまで大人数で長期的なデータはありませんでした。

熱海市は市役所の建物の中に温泉があるんです。65歳以上の熱海市民であれば、誰でも無料で入れる。隣接している階には高齢者がくつろげる場所もあり、そこには看護師さんがいて、健康相談に乗ったりしてます。

大分県も温泉県日本一ということで、繋がりがあります。大分県の県職員の方の協力で、どんな温泉の入り方をしているのか、それによってどう症状がよくなるのかなど、そういったデータを集めているところです。

竹瓦温泉

銭湯や温泉では会話が弾む(大分県・竹瓦温泉)

「温泉に限らず、高齢者外出するきっかけが大事です」

温泉か沸かし湯かというより、『家から外出する』ということが大事です。買い物に出掛けた先で見知らぬ人と話をすることは少ないでしょうし、ゆっくりくつろいで誰かに話かける場面でもないと思います。インタビューしてみると、見知らぬ人と話ができる場面はお風呂の中や銭湯という回答が多いです。裸の状態で知らない人とでも話がしやすい一種独特の空間なんだろうなと思います。

女性は高齢になっても近所付き合いがありますが、団塊の世代の男性が退職を迎えて、会社の付き合い以外は無い方が突然地元のなにかをやれと言われても容易ではありません。今まで地域に関わっていなかった方でも、それが銭湯だったら、ちょっと行ってみようかと足を運ぶきっかけになります。外出するためのきっかけですよね。入浴施設はお風呂に入るのが目的ではありますが、その後でくつろいで誰かと話ができたりすれば、新しいコミュニケーションやコミュニティができるのではと思っています。最近ではスーパー銭湯などが、そういう施設としての設備がありますね。お風呂上がりにゆっくりくつろげるサロン的なスペースというのが大事じゃないかと思います。

早坂信哉教授

入浴施設は昔からあるものですが、再認識をしてもらいたい。これまでは公衆衛生上の、いわゆる体を清潔にするのが目的でした。今後はコミュニティを維持するなど別の役割も出てくると思います。日本人はお風呂が好きな方が多いので、自然な形で介護養護とか健康寿命の延伸に繋がればと思っていて、これからの都市づくりに盛り込んで行ければと考えています。

※2018年7月31日に開催予定の未来都市研究機構のセミナーに、早坂教授が登壇します。詳細はこちらをご覧ください

早坂 信哉(ハヤサカ シンヤ)

所属:人間科学部 児童学科
職名:教授
出身大学院:自治医科大学博士 (医学研究科) 2002年 修了
出身学校:自治医科大学 医学部 1993年 卒業
取得学位:博士(医学) 自治医科大学 2002年
研究分野:公衆衛生学・健康科学
研究分野/キーワード:医学、公衆衛生、疫学、小児保健、入浴医学、温泉医学、地域医療、地域保健

ライター:未来都市編集部

東京都市大学 総合研究所 未来都市編集部です。未来の都市やまちづくりに興味・関心を持つ方に向けて、鋭意取材中!