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コミュニケーションインフラとしてのVRの可能性に着目し、未知の領域に挑戦を続ける(前編)

未来都市 編集部1,617 views

東京都市大学では「未来都市研究の都市大」をコンセプトに掲げ、各領域で都市研究を重ねてきました。今回から「VR×社会的交流の場の創生研究ユニット」(2020年年度~2021年度)の活動と今後の展望についてご紹介します。2つの実験は、コミュニケーションインフラとしてのアバターの非言語コミュニケーションに焦点を合わせた研究の集大成となりました。今回は、ユニット長であるメディア情報学部の市野順子教授と、共同研究者であるTIS・戦略技術センターの井出将弘さんにお話しいただきます。

後編の記事はこちらからご覧ください。

市野順子教授、井出将弘氏

(左)井出将弘氏 (右)市野順子教授

実り多かったコミュニケーション探求の2つの実験

市野教授:VRの技術には長い歴史があります。高所恐怖症の克服だったり、暴露療法といって、例えば、9.11アメリカ同時多発テロでビルが爆発した時の情景をVRの中で体験して恐怖を克服する利用法です。遠隔で何かを操作するというのもAIの歴史としては長いのですが、コミュニケーションのための道具としてのVRは、実は歴史が長くありません。解明されていない領域に、調べることがたくさんあるというのが、研究プロジェクトの大きいモチベーションになっています。

未来都市研究機構のプロジェクトが始まる前から、TISの井出さんと共同研究を行い、その頃からVRでのコミュニケーションを話題にしてきました。そうこうする間に、新型コロナの感染拡大が始まり、いよいよ対面以外のコミュニケーション手段が必要な状況に迫られています。こうした背景から、VRが人間に及ぼす影響を急いで調べなければ、という思いがますます強くなっています。

例えば、対面での会話とVRのコミュニケーションはまったく同じものなのか。それとも何か違うのか。違うとしたら、私たちにどのような影響があるのか、といったことについてです。技術の効果や害悪を何も知らずに、新しいテクノロジーの利用を始めるのは危険です。IT技術の進歩で、身体を感じさせるアバターが登場し、VR空間で対面する人間がその身体性をお互いに感じられるようになりました。アバターになりきった時、人はどう振る舞うのか。アバターの姿を高精細に再現するのがこれまでの技術だとしたら、人間らしさを削ぎ落としたシンプルなアバターと比較したらどう違うのか。人の振る舞いの変化を「自己開示」(市野教授が主担当者、前編のお話)と、「グループディスカッション」(井出さんが主担当者、後編のお話)の2つのテーマに焦点を合わせ、研究に取り組みました。本物と見紛うほど忠実にアバターを再現することへの疑問に解答を出せたという意味で、実験の成果は実りの大きいものです。

市野順子教授

VR空間でなら、人は心をオープンにするのか?

私の実験では、VR空間での自己開示と、自己開示の互恵性について調べています。「自己開示」は、自分自身の事柄である、思考や感情や体験を言葉によって人に伝えるプロセスです。「自己開示の互恵性」、これは相互に自己開示をするかどうか。一方が自己開示すると、相手も開示することを言います。私が打ち明け話をしたら、相手も言ってくれたのだからとお返しをする行動です。

先行した研究からは、チャットなどのテキストメッセージや携帯電話の音声通話は対面の会話よりも自己開示が促されることが分かっています。これに対して、コロナ禍で一気に普及したビデオ通話は、テキストよりは自己開示が促されません。
では、今後普及が見込まれるVR空間では、アバターは自己開示と互恵性にどのような影響を及ぼすのでしょう。関係性を明らかにするための実験を行いました。

実験方法としては、以下の3つの条件について調べています。

  1. Zoomによるビデオチャットの対話
  2. ユーザーの外見と似ているVRアバター同士の会話
  3. ユーザーの外見と似ていないVRアバターの会話

自己開示のセッションでは、自分自身に関する個人的な話題について2人で10分間会話をしてもらいました。

VRの実験計画

その結果明らかになったのは、ユーザーに似ていないアバター、ユーザーに似ているアバター、ビデオチャットの順で自己開示の度合いが高くなるということです。
自己開示の互恵性についても同様の結果が出ました。ビデオチャットでは、自己開示度が低いのに対して(相関係数0.18)、アバターでは相手が自己開示すると自分も自己開示する割合が非常に高い数字(相関係数0.8)を示しました。

自身の内面理解につながる、自己開示の機能

以上から分かったのは、VRアバターでは外見の似る似ないに関わらず、自己開示が促される。互恵性に関しては、アバターは、テキスト以上に自己開示をする上で適したツールであることです。学術的に自己開示には、以下の4つの機能があります。

  1. 感情表出(ストレスの解消)
  2. 自己明確化(キャリアの客観視)
  3. 社会的妥当化(職場での目標管理)
  4. 関係性の発展(マッチングサービスへの応用)

また、VRアバターは、上司と部下などの非対称型のコミュニケーションだけでなく、友達同士などの対称型のコミュニケーションの支援にも適する可能性があります。これらの機能に関連するアプリケーションの開発によって、今後これまでにない有用なサービスの拡充が望まれるところです。

市野 順子(イチノ ジュンコ)

所属:メディア情報学部 情報システム学科
職名:教授
出身大学院:電気通信大学 修士 (情報システム学研究科) 1998年 修了、神戸大学 博士 (自然科学研究科) 2007年 修了
取得学位:博士(工学)神戸大学 2007年
研究分野:ヒューマンコンピュータインタラクション

井出 将弘(イデ マサヒロ)

所属:TIS株式会社 戦略技術センター

ライター:未来都市 編集部

東京都市大学 総合研究所 未来都市編集部です。未来の都市やまちづくりに興味・関心を持つ方に向けて、鋭意取材中!