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健康領域における3年間「健康的で、安心・安全な生活ができる都市に向けて」

未来都市編集部2,600 views

東京都市大学では「都市研究の都市大」を掲げ、「生活」「健康」「情報」「環境」「インフラ」の5つの研究領域を有する「未来都市研究機構」を中心に、魅力ある成熟都市形成に貢献するエイジングシティ総合研究を推進しています。また本学の「都市研究の都市大:魅力ある未来都市創生に貢献するエイジングシティ研究および実用化の国際フロンティア」事業が、文部科学省の平成29年度私立大学研究ブランディング事業(タイプB:世界展開型)に選定され、これまで3年間にわたり、それぞれの領域において研究を重ねてきました。

本記事では、健康領域において研究を行っている理工学部の柴田随道教授と都市生活学部の末繁雄一講師に、この3年間の研究成果と今後の展望、「健康的で、安心・安全な生活ができる都市に向けて」について話を伺いました。

第1回の記事はこちら、第2回の記事はこちらからご覧いただけます。

生体情報のモニタリングを使った、2つの研究事例

柴田教授
3つめのトピックスとして紹介するのは、スマートウォッチといったウェアラブル端末を使った生体情報のモニタリング。いわば人間のセンシングです。

まずご紹介するのは、久保先生(※)の「熱中症対策」についての研究。剣道を例にして考えると、剣道場自体も暑いですが、厚い剣道着をつけているのでさらに熱がこもりやすい。また頭部に面をつけているのでこまめに水分を取りづらいという問題があります。生体情報をモニターして、休憩が必要なタイミングを的確に見つけることで熱中症対策ができるのでは、というところから始まった研究です。

※久保先生に関する記事はこちらもご覧ください

末繁講師
剣道の稽古で行われる動きごとに、水分喪失量や心拍数、体温などの生体情報を計測。稽古中の水分の摂取の有無で血液生体にどのような影響があるかを調査しました。

末繁雄一講師

久保先生は、スポーツという環境下で体がどういう影響を受けているのかということを研究されていましたが、そうした過酷な状況でなくとも暑い時に街を歩いていると熱中症になります。私は都市計画が専門ですので、街歩きをしている人の体の情報と温熱環境の2つがそれぞれどのように変化し、どのような関係性を持っているかを分析しました。

具体的な実験内容ですが、さまざまな温熱環境が密集する自由が丘を実験場所に選定。10人に参加してもらい、リストバンドのようなウェアラブル端末と「ホルター心電図」を身につけてもらい、9月から10月というまだまだ暑い時期に屋外歩行、屋内歩行、屋外休憩、屋外歩行を各10分ずつやってもらいました。ウェアラブル端末以外にも熱中症計、唾液中に含まれるアミラーゼを利用した「ストレス判定唾液アミラーゼモニター」、体温計、体重計などを使い、生体情報と温熱環境のデータをさらに取得しました。

分析の結果、外を歩いていると心拍数とストレスレベルが時間の経過につれて徐々に上がっていき、冷房のきいた涼しいところに入ると大きく下がっていく。続いて屋外で休憩すると屋内にいるときほどではないものの、ストレスレベルは明らかに低下。また外を歩くと、心拍数・ストレスレベルはともに上がっていくということがわかりました。つまり屋外で、しかも10分程度の短い休憩であっても、体に良い回復効果があることが明らかになったのです。

「サードプレイス」が生み出す安らぎが、健康へとつながる

末繁講師
すでに始まってはいますが、これからは外に出ることなく、オンラインで買い物をし、リモートで働くことが普通のライフスタイルになっていくはずです。そういう未来がくると、自然と市街地の役割が今とは変わってくるでしょう。

これからは仕事や買い物のために外に行くのではなく、人に会うためとか散歩のために外出するのではないかと。言い換えれば、お金を消費したり稼いだりするために外に出るのではなく、時間を消費するために街に出るようになる。例えば多くのショッピングセンターなどは主にお金を使うために最適化された空間ですが、これからは余暇時間を楽しむための受け皿となる街が、人々から求められるようになるかもしれません。

末繁雄一講師

例えば銀座はあまり外で休める場所がないですが、カフェやレストランは充実していて、外に出るのはビルとビルの間を移動するときだけになっています。しかし「街のにぎわい」という意味では、どうしても正しいように思えないのです。ただ館の中がにぎわっているだけで、外はただ移動するために歩くだけ。一方、私が研究でよく取り上げる自由が丘は緑道があって、人がベンチで座って休んでいる。そこで見知らぬ人同士の会話やコミュニケーションが生まれる様子は、とても豊かだと感じるのです。

これからのまちづくりでは流動よりも滞留空間、ほっと安らげるような「サードプレイス」が大事になってくるはずです。さらに今回の実験で「サードプレイス」となりうる屋外の休憩場所に体を癒す効果があり、健康にもいいことがわかったのは、新しい発見でした。健康領域ユニットに参加したからこそできた新しい研究だと思っています。

「個」の社会だからこそ、つながり感が大事

柴田教授
今後の展望ですが、数十年前から核家族化が進んで、これからますます「個」の社会になっていくというのはみなさん共通の認識だと思います。一人ひとりが別々に暮らし、最高のパフォーマンスを出せるような環境になってはいきますが、だからこそ今後はこれまで以上に「つながり感」が大事になってくると感じています。私はコミュニケーション、通信が専門ですので、空間を超越したつながりをどう生み出していくかを、さらに追求していきたいですね。

柴田随道教授

末繁講師
家の中にいて、なんでもできてしまうような未来がすぐそこにきていますが、そうした状況になってもわざわざ出掛けたくなるようなまちづくりを、今後も研究していきます。

柴田教授
健康領域ユニットは「健康的で、安心・安全な生活ができる都市」という観点で3年間研究をしてきましたが、これがゴールではなく、今後も4人でつながりながら新しい切り口で研究を続けていけたらと思います。

柴田 随道(シバタ ツグミチ)

所属:理工学部 電気電子通信工学科
職名:教授
出身大学院:東京大学 修士 (工学系研究科) 1985年 修了
出身学校:東京大学 (工学部) 1983 年卒業
取得学位:博士(工学) 東京大学
研究分野:電子デバイス・電子機器
研究分野/キーワード:集積化システム工学、集積回路、信号処理、センサネットワーク

末繁 雄一(スエシゲ ユウイチ)

所属:都市生活学部 都市生活学科
職名:講師
出身大学院:熊本大学 博士 (自然科学研究科) 2007年 修了、熊本大学 修士 (自然科学研究科) 2002年 修了
出身学校:熊本大学 (工学部) 2000年 卒業
取得学位:博士(工学) 熊本大学 2007年
研究分野:都市計画・建築計画
研究分野/キーワード:都市計画、建築計画

ライター:未来都市編集部

東京都市大学 総合研究所 未来都市編集部です。未来の都市やまちづくりに興味・関心を持つ方に向けて、鋭意取材中!