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「未来都市研究の都市大シンポジウム2019」レポート(後半)

未来都市編集部 156 views

3月29日に開催された「未来都市研究の都市大シンポジウム2019」では、各領域の代表者から有意義な報告がなされた。前半では、インフラ領域、環境領域、情報領域の活動内容について紹介したが、後半では、生活領域および健康領域の成果と今後の展望についてレポートする。

未来都市研究の都市大シンポジウム2019の様子

各領域の研究テーマと発表者

1.インフラ領域
「老朽化インフラの維持管理および防災技術の高度化」
工学部 関屋英彦 准教授

2.環境領域
「グリーンインフラの整備およびマネジメント」
総合研究所 飯島健太郎 教授

3.情報領域
「都市活動の常時観測への挑戦」
工学部 今井龍一 准教授

4.生活領域
「買物困難者支援システムの改善施策/都市生活者10000人調査の成果」
都市生活学部 西山敏樹 准教授

5.健康領域
「都市における外出行動支援に関する研究」
知識工学部 柴田随道 教授

生活領域

西山敏樹 准教授

都市生活学部 西山敏樹 准教授

生活領域は2018年度、「都市生活者10000人調査」と「買物困難者支援システム(Ver.2)の試作開発」を実施。都市生活者が暮らしに求めていることを顕在化し、生活上の満足度を高めるための研究を行ってきた。

1.都市生活者10000人調査

都市生活者の都市に対する潜在的な欲求(インサイト)を探るため、全国の18歳から69歳までの男女にインターネット調査を実施した。

調査から見えてきた特筆すべき点は、60歳以上人口が4割に達する2020年以降において、「孤」または「個」を社会問題に位置づけ、重要視している人が多いことである。近未来に向けて、未来都市研究機構全体で、「孤」や「個」に対する不安を取り除くための研究を積極的に続けていくことが大切だ。

また現在暮らしている都市の満足度を聞く設問では、半数以上の生活者が現状に「満足している」と回答。満足の理由をテキストマイニングで分析すると、キーワードに「利便性」・「近接性」・「生活施設の充実」の3つが挙がった。一方で、約2割が居住する都市に不満を感じている。不満の理由は、「交通の不便さ」・「店・商業施設の少なさ」・「税・物価の高さ」だった。この調査結果は、これからの街づくりやサービスの提供に活かせるはずだ。不満に感じる項目を解消する方法を検討し、それが実現できれば、都市生活者の満足度をより高めることができるだろう。

2.買物困難者支援システム

生活領域が進める都市生活者の不満を解消するための施策に、買物困難者支援システムがある。「農都共生システム」は、買物困難者が自宅にいながら顔の見える生産者から新鮮な野菜などを購入できる画期的なシステムだ。事前にクレジットカード情報や自宅住所などを登録しておけば、カラーコード「ロゴQ」をスマホで読み取り、簡単な操作をするだけで、商品選択から決済までが完了。即時に(翌日までに)商品を配達してもらえる。

生産者にとってもメリットは大きい。直売所などに野菜を運ぶ手間が省けるので、高齢農家の負担が軽減される。購入者(ファン)が増えれば、やりがいも増すだろう。さらにEV車や高性能保冷剤を使用したエコ搬送を組み合わせることで、環境にも人にもやさしいサービスになる。このシステムが実際にリリースされれば、高齢者や障がい者、外国人、小さい子を持つ親などの暮らしを温かくサポートできるはずだ。

農都共生システム

農都共生システム

また誰もが利用しやすいユニバーサルなシステムを目指して、新たなモバイルオーダーシステムの開発にも着手している。初期システムは、紙のチラシを見て、欲しい商品欄にあるロゴQを読み取り、スマホ画面を操作して購入するという流れだったが、新システムではさらなる使い勝手の向上とエコへの取り組みを強化した。改善点は大きく分けて次の2つである。

  1. モバイルサイトが苦手な人のために、チラシのイメージをそのまま再現し直感的に選べるように仕様変更。消費者は見慣れた紙のチラシを見るように商品を確認しながら、欲しい商品画像をタップすれば簡単に購入できるようになった。
  2. チラシをなくし、顧客ごとの識別コードをプリントした専用カード(メンバーズカード)を用意。自分専用のロゴQをスマホで読み取るだけで、チラシを再現したサイトが表示され買い物を楽しめる。チラシ作成のための紙や印刷を省けるのもポイント。

これらの改善は、モニターからも高く評価されている。

次年度は、運搬実験を実施する予定。東急グループなどの企業と協力して、よりビジネスとしての現実性を高めていきたい。

健康領域

柴田随道 教授

知識工学部 柴田随道 教授

健康領域では、高齢者や子育て世代を対象とした都市における外出行動支援に関する研究を進めている。2018年度は、「自由が丘での実証実験」と高齢者を遠隔地から見守るための「位置推定実験」を実施した。

1.自由が丘での実証実験

2017年度に実施した子育て世代約1,000人に対するアンケートから、「街歩きする際に都市環境に求めるもの」の第1位は「トイレやおむつ替え・授乳室の整備」であることがわかった。この結果を受けて2018年度には、自由が丘をフィールドに授乳室の必要性を探るための実証実験を実施。街の協力を得て、既存の授乳室2ヶ所と仮設の授乳室3ヶ所のドアにセンサを付け、空き状況をスマホアプリでわかるようにシステム化。利用者にはアンケートを行い、生の意見を収集した。

自由が丘での社会実験

自由が丘での社会実験

実験の結果、自由が丘には授乳室の整備が必要なことが明らかになった。天気に左右されたり時間帯によってニーズが変化したりするものの、子育て世代は特に街歩き中に利用できる授乳室を求める傾向が強いようだ。つまり大型施設のようにシステム化された授乳室が街なかに点在していれば、子育て世代を今よりもっと呼び込み、街の活性化につなげることができるだろう。

2019年度はアンケート結果を詳細に分析して、子育て世代に求められているニーズをさらに深掘りしていきたい。

2.研究室での位置推定実験

高齢化社会では、遠隔地から高齢者の「見守り」を行うために、IoT技術などを用いたネットワークづくりが求められている。たとえばセンサネットワークを活用すれば、遠くに住む子世帯はもちろん、自治体や企業なども街なかでさりげなく見守ることができるだろう。

人の位置を把握する手法のひとつに、ビーコンを使ったものがある。ビーコン機能付きの衣服や眼鏡、アクセサリーなどを身につけた高齢者が家の中を移動すれば、設置した複数のゲートウェイ(中継センサ)の受信強度データから発信元の位置を確定できるのだ。海洋などでも使われる三点測位を応用したものだが、電波状況や空間の広さ(距離)に依存して精度が変わるため、施設や住宅内では必ずしも有効に働くとは限らない。そこで、機械学習(サポートベクターマシン)による分類器を導入し、電波強度から見た建物マップを作成することを検討。実現可能かどうかを確認するため、研究室でビーコンを使用した位置推定実験を実施した。

サポートベクターマシンを用いた自動分離による推定の結果、総合正答率は90.4%と好成績を得られた。部屋によってはやや正答率が劣る場所もあったが、ゲートウェイの配置箇所を適切に行えば、屋内の見守りに充分役立てられるだろう。

さらに精度を高めるために2019年度もこの研究を続けていく。

未来都市研究の都市大シンポジウム2019の様子

学部を横断し、学内のたくさんの専門家が協力して都市研究を進めている大学はほとんど存在しない。2019年は東京都市大学創立90周年と節目の年にあたる。2018年度の素晴らしい成果をさらに飛躍させ、技術力に秀でた都市大らしい研究の深化に期待したい。

ライター:未来都市編集部

東京都市大学 総合研究所 未来都市編集部です。未来の都市やまちづくりに興味・関心を持つ方に向けて、鋭意取材中!